暗殺チーム | ナノ






 それは何時もと変わらぬアジトのリビングでの一時。彼、ホルマジオは自身のスタンド能力により小さくした猫を瓶に詰めて観察していた。にゃあにゃあと喚くそれは中途半端に小さくされ、窮屈そうに瓶の中で身じろいでいる。ただの毛玉が瓶の中に詰まったようなそれを360度回転させ隅々まで見ては彼は満足そうに唇を引き上げていた。

 猫好きである彼の悪趣味は今に始まった事ではない。床でクッションを抱き抱えゴロゴロと忙しなく転げ回るメローネは知ったこっちゃあないと自分の事で手一杯なようだ。
 と、不意にリビングへと入る為の扉が蹴破られた。それをするのは限られている。常に苛々しているギアッチョか、曰く手よりも足が出やすいらしいナマエだ。この時は後者だった。

「にゃあー!」

 ホルマジオは己の耳に入って来たその鳴き声に瓶越しの眼差しを向けた。猫の鳴き声を真似たそれは人間のもので、それでいて自身の恋人であるナマエの声だった。勿論、彼女はそんなことをする性分ではないので、彼は怪訝な表情である。

 眼差しを向けた後で彼はその眉根をさらに寄せることになる。何故だろうか、ナマエは頭に猫耳を模したそれを付け、尚且つ尻尾まで付けているではないか。もう一度言おう。彼女はそんなことをする性分ではないのだ。彼は至極真っ当な疑問を口にした。

「……何やってんだおまえ」

「ホルマジオにゃあー!」

「ったく、しょうがねえなーっ。どうせメローネ絡みだろ?何だ、罰ゲームか?」

 再度猫の鳴き声を真似るナマエに、彼は自身の口癖を吐きながら刈り上げられた頭を掻いた。そして床でクッションを抱え込みにやにやと笑う男を見てから彼女を見やった。
 ナマエというと今度はポーズまで付けて再び試みるのだが、それはホルマジオの訝しむ眼差しとメローネの悦に入った眼差しを頂戴するだけに終わり、遂に耐え切れなくなったようだった。

「にゃ、にゃああん!……っくそ!メローネ、どうなってんの!効果全然無いんですけど!?」

 ナマエは頭部の猫耳を模したそれを毟り取って、地面へと叩き付けながら声を荒げた。やはり、メローネ絡みである。名を呼ばれた男は勢い良く起き上がり、彼女へと攻め寄った。何処から出したのか画面に規制、モザイクを入れたくなるようなブツを持って攻め寄ったのだ。面積が少なく肌にやたらと密着したその服装の何処から取り出したというのか、まったく。

「ナマエそれはな、きっと尻尾がただ服にピンで留められているからだ。俺の持ってるコイツで直に生やせばきっと一発だ!」

「何それ、どんなのって……ただの大人の玩具じゃん!そんな罠に嵌るか!メローネ死ね!」

 そら、彼女は手よりも足が出やすい。近寄ったメローネとは彼を蹴り飛ばすことで距離を離す事になった。が、さすが変態と称される彼だ。ここで引く訳も無い。手に持ったそれを大袈裟に翳しながら彼女へとにじり寄って行く。その様にナマエは完全に引いている。

「イイから穴にぶっ刺そうぜ!」

「ホルマジオ助けて!」

「いや、お前らマジで何してんだよ」

 自身の背へと逃げ込んだ恋人と目の前の変態に呆れた声で彼はそう言った後、依然変わり無く距離を詰めるメローネをほらシッシッ、と手で払った。
 メローネは手に持ったそれをぽいっとソファへと投げ捨てリビングを出る為に踵を返す。その背中で肩を竦めてぶつぶつ言っているがそんなもの二人は無視だ。

「ちぇ、あんたが乗ってさえくれればもっと過激なのも見れるっていうのに……」


そしてアジトのリビングに晴れて二人きりになった恋人は、どちらとも無くソファへと座り、身を寄せ合い目を見合わせる。変態の放ったそれをまた放るのも忘れずに。それの行く先も見ずにホルマジオは言った。

「で、なんだったんだ?」

 ホルマジオの問いかけにナマエは視線を居心地悪そうに彷徨わせて、漸く視線を留めたのはソファテーブルの上に置かれた猫入りの瓶だった。呻くのも疲れて眠りこけるその毛玉を見ながら彼女は何とも覇気の無い声で漏らした。

「……ホルマジオ、ねこ好き?」

「あー、好きだな」

 勿論、彼が猫を好きなことなんて恋人であるナマエは百も承知だ。だが、それをこの場で問うた。そして彼女はもう一度猫の鳴き声を真似たそれを喉奥から吐き出した。

「にゃぁん」

「あ?」

「……私は好き?」

 自身無さ気にそう言った彼女に彼は、どうしようもない愛しさを感じた。言葉にするのは億劫だと思っていた彼はそれを少し悔いて頭を掻いた。そして彼女の目を見ながら言葉にしてやるのだ。

「ったく、しょうがねえなーっ!お前以上のものなんてないっつーの」

 彼の愛を言葉で頂くことが出来た彼女は、表情を一変させ彼へと思い切り遠慮無く抱き着いた。もう猫耳を模したそれがついていない頭部をホルマジオの胸部へとぐりぐりと押し付けながら叫ぶように言った。

「私もホルマジオが大好きだー!にゃあ!」

 真っ赤な頬を隠す照れ隠しのそれもお構い無しに、ホルマジオはナマエの顔を上げさせて色付いた頬や目元、唇へと口付けた。

 そうして十分過ぎる程愛を確かめ合うことの出来たナマエはその後、上機嫌でリゾットへと報告書を提出する為にリビングを出て行った。
上機嫌なナマエの背を彼は穏やかな笑顔で見送ったのだ。


 ―その尻に猫のしっぽの偽者をくっつけままのナマエに、リゾットがぎょっとするのはホルマジオの口癖通り、しょうがないことなのだろう。


(Miao!)