暗殺チーム | ナノ






 人間を二つに分けて区別するとしよう。「暗殺者」と「堅気」だなんて物騒な区別では、ない。直ぐに思い浮かぶ、簡単な振り分けだ。「男性」であるのか、はたまた「女性」なのか。この二つに分けるとしよう。この区別に用いる定義は身体的、つまり生物的な性だ。性自認が、著しくずれていたり、反転しているケースが認められても、今回は生物的な性で、区別しておこう。
 人間の23対の染色体のうちの1対は性染色体と呼ばれ、これの型によって性別は左右され、決まる。XY型かXX型か。前者が「男性」で、後者は「女性」だ。ただしこれ典型的であるもので、別例もある。が、大まかにここまでの説明でいいだろう。


 一人の人間を紹介しよう。名前はナマエ。パッショーネというギャングの、暗殺チームに所属する二十代前半の人間だ。暗殺という仕事は何かと危険でいて厄介である。それ故か、そこに回されるものはスタンド能力持ちの人間が多かった。スタンド概念の説明は省いてもいいだろう。どうせ説明しても、どれも知っている知識のはずだ。明記すべきはナマエのスタンド能力である。パッショーネ内で冷遇されるそこへと回されたナマエも、例に漏れずスタンド使いであった。ただ、ナマエのそれが暗殺向きかと言われれば、そうでもないと言える。いや、物は使いようではあるが。暗殺より、諜報向きであるそれのスタンド名は「バッド・ロマンス」最悪という意味で取るか、俗語としてのイカシてるや最高に良いとして取るか。
 勿体振らずに、ささっと能力を説明してしまおう。その能力は以下の通りだ。スタンドの手が触れた者は、性別が反転する。その効果は、ナマエがスタンドを解除しても掻き消えることは無く、本来の性別に戻るには再度、ナマエが能力を行使する必要があった。「男性」が「女性」になり、「女性」が「男性」になる。姿形だけの取って付け、或いは取り外しではない。その能力は性染色体まで影響を及ぼすのだと言う。医者の言ったことだ。間違い無いだろう。いや、間違える医者もいるだろうが、ナマエが態々自身の身体を提供したその医者は、下種野郎であったが、知識や腕は確かだったのだから。そうだ、情報の後出しになってしまったが、その能力は本体を対象にすることも出来る。いや、出来た。つまり、出来ている。


「で、どっちだ?」

 自身のスタンド能力と、それを自身に頻繁に使用していることを言えば、最終的にその問いがナマエへと投げられる。遅かれ早かれ、だ。その質問に、ナマエは決まった言葉を返すことにしている。男性の誰かが尋ねようと、女性からの何度目かの質問になろうと、同じ言葉をその唇を吊り上げて言うのだ。

「内緒」

 さて、「彼」或いは「彼女」は「男性」なのか「女性」なのか。すっぱり、はっきりとして欲しいものだ。書き手としても、当て嵌めるべき三人称に迷ってしまうから。周りにしても、求める気持ちは大なり小なりだが、確かにその答えが欲しかった。ただ、物事には例外はいるもので、ナマエが愛し、またナマエを愛したその人物は、その答えを求めることを放棄していた。決して投げ遣りな心情で諦めたのではない。つまり彼は、ナマエが「男性」であろうと「女性」であろうと、愛する。愛しているとその唇で囁いたのだ。付け足すように、ただし抱かれるのはごめんだ。と、鼻で笑って。ナマエは彼が同性愛者でもなければ、バイでもないことを勿論知っていた。だから、本当に、ナマエという人間の本質を求めてくれるその人に、愛されたいと思ったのだ。その時には既に、彼はナマエを愛していたが。


「プロシュート」

「あ?」

 性染色体が移り変わり、高さの変わった声色でナマエは彼の名を呼んだ。描く輪郭の角度や、身体の線の流れ、抱き縋る筋肉の付き方。それらは変わってしまうが、何一つ変わることの無いものを孕んだままに。

「プロシュートの全てが欲しい」

「端からおめーにやったつもりだ」

 彼は最高の愛を求めていた。彼女は手に入る限りの全てを欲していた。彼でも彼女でも愛されたい。誰にも真似出来ない。最高にイカレタ恋愛を描いた彼は私室へと招いて、いけない恋愛に囚われた彼女は×××を望んでいる。
 そしてナマエの性染色体は本来の型に戻って魅せるのだが、何一つ変わらない。プロシュートがナマエを抱くという事実は変わらない。何故なら、彼がそれを望んでいたからだ。
 二人の人間がいたが、ヒトツになった。それがどういう意味なのか聞くのは無粋ではないだろうか。つまり、そういうこと。最低で、最悪な、最高で、イカシてる、愛だ。


(Bad Romance)