暗殺チーム | ナノ






※注意:病んでる

 其処に配属される者は、人として何処か欠けた者ばかりだ。大なり小なり。明らかに目に見えている者もいれば、奥底に隠して気配だけ漂わす者もいたり、例外無く皆が皆、歪さを持ち合わせていた。勿論、完璧な人間などいないだろう。そもそも、何を持って完璧だと言えるのか。定義付けに完璧な人間を選ぶことから、いたちごっこになってしまう。話が完全に逸れてしまう前に、もう一度言っておこう。其処に配属される者は人として何処か欠けたものばかりだということを。


 スパゲッティ症候群という言葉を御存知だろうか。病気の治療や救命処置の為に、無数の管や電線等を身体に取り付けられた状態のことだそうだ。ナマエ、彼女の今の状態はそれに似ていた。とは言っても、彼女の身体から伸びるそれらはどれも鉄で精製されたもので、一つとしてその役目は治療や救命処置の為のものでは無い。役目はたった一つ。唯の一つである。ナマエをその場所に捕らえ続ける。それに尽きる。
 彼女の身体から伸びるそれらは、憎らしいぐらい適度な長さに調節されていた。生理的な現象を処理する分の距離を赦し、遮断された下界へと手を伸ばすには僅かばかり届かない。それを拵えた男は抜かり無い。

 その部屋に時刻を示す物は無かった。以前は存在していたかもしれないが、ナマエがそこへと放り込まれた時には、既にそれの姿は無かった。部屋に窓枠は存在していたのだが、本来硝子があるはずのそこには鈍い色を放つ金属があり、差し込む日光も存在しない。なので、確かな日数は分からない。体内時計を用いて壁に日数を刻む真似等、端からする気はなかった。壁は無機質に其処に在る。

 ナマエは、一人で眠るに充分な広さを持つベッドの中央で眠っていた。余った鎖や鉄線を手繰り寄せ、それらに埋もれるように。
 彼女の瞼が微かに震える。暗殺者であった彼女は、僅かなそれにも目を覚ます。相手が幾ら足音、気配を消そうと分かってしまう場合もあるのだ。彼女が瞬きをして数秒後、ただ一人しか出入りしないその扉の鍵が開錠される音が、ナマエの鼓膜を引っ掻いた。身じろいだ彼女に合わせて、金属が擦れて不快な音を立てる。そして扉は開き、彼女の唇が男の名を乞うように、紡ぐ。

「リゾット」

 彼の双眸は、彼女を捕らえる。底の見えない漆黒が、身を焦がす炎の様な深紅が、ナマエを捕らえて放さないのだ。

「ナマエ」

 薄く開いた唇の囁く様なそれに、金属が震える。暗殺者らしからぬ足音をカツッ、カツッと立てながら、彼は彼女との距離を詰める。ナマエが動けば、手首から伸びる鎖の何本かが、ガチャガチャと煩く喚いた。
 そして捕らえて放さぬ男の目が、彼女を見下ろした。ナマエはその目を見上げながら、やはり、乞うように彼の名を紡ぐ。

「リゾット」

「……ナマエ、愛してる」

 彼は、彼女から伸びる金属まで手繰り寄せ、彼女を抱き締めた。
 金属は冷たい。彼の体温は平均より低いが、それでも確かな人肌に、ナマエは頬をぴたりと密着させて瞼を閉じた。閉ざす視界の最後の最後まで、鈍い光を放つそれを捉えながら。彼女の手首から伸びる鎖は、ナマエがリゾットの背中へと腕を回しても、充分に余るものだ。鉄の、血の、愛の、それの香りを嗅ぎながら、瞼に落ちてくる彼の唇を彼女は感じた。そして微笑みながら、ナマエも呟くのだ。愛してる。だ、なんて。
 其処に配属される者は人として何処か欠けたものばかりだ。例外無く皆が皆、歪さを持ち合わせていた。それだけ、それだけなの、だ。


(歪み)