暗殺チーム | ナノ






 後輩が怖い。名前はナマエ。つい一月前にやって来た新入りだ。
 ナマエは女だけど、そんなの肩書きだけなんじゃないかって思う。釣り上がった目付きはすこぶる悪いし、口調も荒い。女らしさなんて皆無で、おまけにオレより腕っ節がある。オレより後に入った後輩にあたるくせに生意気だ、なんて思う暇を与えないほどのスタンド使いだった。

 男所帯でむさ苦しい所へ女が来るってもんだから、内心喜んでたオレを殴り抜けてやりたい。ジャポネーゼだって聞いてたから、ヤマトナデシコってのを思い浮かべてたんだ。今でも思い出す、リーダーの隣に並び、紹介されてる時のあの姿。ぐるりとリビングを回り見た目がオレを見止めた時に、ついッとさらに細く吊り上げられた様。ほんと、自身を殴ってやりたくなった。

 余談だが、オレと同じく女の加入に喜びを身体全体で表していたメローネは、ナマエに女らしさの欠片があったって、なくったって関係ないようだった。あの人は性別が女だったら、何でもいいのだろう。もしかしたら、性別さえ関係ないのかもしれない。……考えるのはよそう。兎も角、メローネはその日さっそく質問攻めにして、平手じゃなくて拳で沈められていた。

 そんなオレが苦手とするナマエの教育係には、ホルマジオが就いた。
 オレがプロシュートの兄貴に付いて動き回るように、そいつもホルマジオに付いて回っていたが、その様が古くからの仕事仲間のような雰囲気を醸し出していて、何とも釈然としなかった。


(あぁー、……いやだなあ)

 そして今、オレはホルマジオのアパートの前にいる。手には任務に関することがまとめられた書類が一束。それをホルマジオに渡して来いという、所謂お使いをオレは今担っていたのだが、溜息を一つ押し出す。
 何時まで突っ立っていてもしょうがない、チャイムを人差し指で押し込むと、定番の音が鳴り響いた。ぴんぽーん。間抜けだ。

「よう」

「……これ、渡して来いって」

「あぁ、上がれよ。ナマエがカッフェの一杯くらい出すだろ」

「えっ、いいよ!」

「いいから上がれって」

 殆ど強制的にお茶をしていけと言われたオレは、足を踏み入れる他無く、重い足取りでホルマジオのアパートへと招かれることとなった。

「ナマエ、ペッシにカッフェでも淹れてやってくれ」

 ホルマジオが呼びかけるものの、オレにはナマエが何処にいるのか分からなかった。きょろきょろと辺りを見回すオレに、ホルマジオはソファの裏を指差す。それを見てオレは回り込んでソファ裏へと視線をやった。ら、吃驚した。

 そこには猫がいた。勿論、ホルマジオの猫だ。猫の存在は別に驚くことでもなんでもない。前足を突いてぐいーと伸びをする猫にならって、その猫と対面しているナマエが同じように伸びをしていたのだ。絶句の後にその光景を傍観するオレに気付かぬままで、ナマエは猫と同じ動作を続けて、やがてじゃれて来た猫と猫のノリでじゃれ始めてしまった。

「……あれ」

「ナマエ」

「……ほんとに?」

「ナマエ」

 呆気に取られるままで指差してホルマジオへと問うと、にんまりと唇を吊り上げながら確かにナマエだとオレに告げてきた。でも、本当にその名の人物なのかと、オレは我が目を疑ってしまう。だって、これはあまりにも……。

「おいおいナマエ、いい加減こっちの世界に返って来いよー」

「……あー、ペッシさんども」

「あ、うん」

 今気付きましたって感じでオレへと顔を向けてきたナマエに、オレは思わず背を正してしまった。打つかった視線にオレはあれ?と疑問符を浮かべて、そのままにその疑問を呟いてしまう。

「なんか、目付き悪くなくなってる……?」

「それって、なんか酷くねえ?」

「まあ、ペッシが呆然となるのもしょうがねーよなあ。あ、カッフェよろしく」

「へーい」

 ナマエがすたすたと備え付きのキッチンへとカッフェを淹れに行くのを見送った後、ホルマジオは続けるように言葉をオレへと吐いた。

「目付きが悪かったのは、コンタクトを失くしてたからだ。言葉遣いが悪いのは、イタリア語を習った環境の所為。腕っ節もそうだな、そんな環境で育ったから、だろうなあ。あと、猫に問わず動物が好きらしい」

「だって、オレ、めっちゃガン飛ばされてたから……」

「コンタクトの所為と、あれだ。お前に小動物的な可愛さを見たらしいぞ、あいつ。変わってるよなあ」

「え、ええ、えええー……」

「ちょっ、マジオさん何言ってんすか!」

 ナマエがマキネッタを火にかけるその背のままに声を荒げる。ぷんすかと怒るその横顔に見える頬は、照れているのか真っ赤に染まっていて、良く見れば両耳も吃驚するぐらい赤くなっていた。あれ、何だ、ナマエって……。

「意外と、女の子なんすねえ……」

「ブッ!ペッシ、そりゃあひでえ言い草だなあ!」

「ひでぇ、二人ともひでえー!」



 と、この後からオレはナマエに対する苦手意識を拭うことが出来たわけで、たまたまアジトでキレていたギアッチョの言葉に反応してしまったわけだ。

「クソックソクソクソッ!あいつマジで女かよッ!」

「ギアッチョったらナマエちゃんは女の子だよ。ねー、ペッシ?」

「そうすっね。ナマエって結構女の子してやす」

「「……え」」

「え?」

 その後二人に質問攻めされて、特にメローネになんだけど。兎も角、わちゃわちゃされてるところに話題の人物、ナマエがやって来て、早速跳び付いたメローネが殴られてた。殴る云々も照れ隠しなんだと思えるようになったのは、ナマエの頬が僅かに赤く染まっていることに気付けたからだろう。やっぱり、彼女も女の子らしい。それでも、メローネの腫れた頬は痛そうで、オレは自身の頬を摩ってしまうばかりだった。


(後輩は女の子)