mad | ナノ






人によっては不快な行為を描写しています。

『唾をつけとけば直る』

嫌な予感や地雷のある方はご注意を。大丈夫な方はそのまま下へどうぞ。






 リサの肌は白い。彼女の舌は赤い。対照的な色合いが酷く扇情的だと第三者が見たら思うかもしれない。が、そんなことを思い考える輩は其処にはいなかった。低俗低脳ばかりである。

 ぴちゃぴちゃ。ぺろぺろ。どういう擬音で表すことが適当であるか困るが、彼女の行動を書き記すなら簡単だ。リサは今、三角頭のその肌に舌を這わせていた。酷く血色の悪い肌を舐める彼女の舌先は、本来の色とは別の色合いが乗り彩っている。よく見てみれば、リサのものではない血が、彼女の舌の窪みに僅かに溜まっている。彼女が一心不乱に舐めているそこには重傷といかずとも見るに痛い傷が出来ていた。
 噎せ返る様な血と錆びの匂いが充満したサイレントヒル。似ていても解る者には判る二種の香気。別にそれに中てられたわけではないし、三角頭がその行為を無理強いしたということでもない。リサは両の目に零れそうで零れない涙を溜めながら、悲痛な面持ちで眉を寄せているが、その行為が嫌だからではないのだ。傷を舐めているのはリサ達ての行動である。

 サイレントヒルに現れる外界者は何も一人ではない。そうしてその一人から攻撃されることも初めてではない三角頭は、その時のことを僅かばかり思い出していた。
 自身の脇腹に掠めたそれと、もしこの場で死傷を負った場合、自分はどうなるのだろうか。死ぬということと、存在が掻き消えることはイコールで結ばれるのだろうか。自分がいなくなった場合、リサはどうなるのだろうか。自分に代わる者が現れるのだろうか。自身と姿形が寸分も違わぬ、それでいて自身ではないそれが彼女の隣に会われて、何食わぬ顔で自身の居場所を奪うのだろうか。そんなことを考えながら、彼は自身の脇腹に傷を作った者の頭蓋骨を踏み割っていた。そんなことを思い出しながら、彼は今尚自身の脇腹の傷へと舌を這わせるリサを見た。

 リサを残して死ぬのはよくない。そんなことを考えた。それでいて、自身の肌に彼女の熱が滑る度に彼はちらちらと情欲の炎を燃やしながら思うのだ。偶には、死なない程度に怪我を拵えておこう、と。彼はその時、自身が結構に低俗であることを知った。それでも、考えを改めようとは一寸も思わない。リサの舌の熱さも、響く水音も、彼女の瞳に溜まった涙も今回の場合は彼の心を高鳴らせるものに他ならない。

「三角さん、まだ痛い?」

 彼は彼女の問いに首を縦に、素直に振った。素直に、欲望に忠実に。唾でもつけておけば直る。そんな言葉があって良かった。そう思わずにはいられなかった。ぴちゃぴちゃ。ぺろぺろ。噎せ返る様な血と錆びの匂いが充満した其処で戯れの行為は終わらない。