mad | ナノ






 また、会いましたね。私は心の中で呟いた。二度目の出会いもまた、三角さんは何かの死体を片手に携えていた。ただし今回は、前回に比べてその姿が人に近いような気もするけれど。恐怖の一つは感じても良いはずなのに、それらしきものが一つも浮かんでこない。それは前回の別れ際、彼が私の脳に置き去りにしたその言葉の所為だろう。

 彼は背後に現れた私の存在に気付くと、死体をその場に捨て置いた。そして、ゆっくりと振り返るその頭部の三角の金属。あなたはなんて不思議な存在なのだろうか。いや、この世界そのものが本当に不思議なんですけどね。ゆっくりと近付いてくる彼はやがて、私の目の前で止まる。視線が打つかっているような気もする。あくまで、そんな気がした。彼の目はその鈍色の光を放つ三角の金属で遮られている為に、窺うことが出来ない。

「この前私に言ったこと、覚えてますか?」

 彼は、その大きな金属を少し傾けた。それは私の問いに、何のことだ?とばかりに聞き返す行為だった。少なくとも私は、その行動の意味をそう捉えた。そうして私はその問いに答えるべく、自身の唇を開いた。

「その、気のせいでしょうか。愛してるって……」

 瞬間、ガツっと音を立てて彼は後退った。彼の急な動作の為に、足下に群がっていた虫が彼の踵に打つかり吹き飛んだり、その足の下で潰れたりした。ついでに、私の足下にもその虫は群がっている。噛み付いたり、触れられることはないが、ある一定の距離を保ち群れている。これはこれで何だか嫌だ。

「愛してるって」

 もう一度言ってみると、彼はその言葉と同時に後ろに下がる。その行動に確信めいて、私は何度もその言葉を発する。そうすると彼は、その言葉に比例するが如くその度に衝撃を受けるように後退していくではないか。そうして大分離れてしまった彼を、私と虫達は見た。

「私は結局、あなたを愛してしまいました。あの、三角さんは……?」

 私の告白に盛り上がったのは、足下の虫達。虫達に喜ばれてもなあ……。遠く離れた所で彼は、頭部の金属を小さく縦に振った。私はそれを確認するや否や足を踏み出し、彼に駆け寄った。その際に距離を保っていた虫達を踏みつぶしてしまったのは、許して欲しい。それに、画的に無かったことにした方が良いと思う。

 勢いに任せ跳び付く様に抱き付いたその身体は見ての通り逞しくて、少し、痛かった。私を抱き留める際に三角さんは大きな刃を手放したので、それは地面に音を立てて打つかった。静かな空間に響くその音を何処か遠くで聞きながら、彼の感じるか感じないかの温度に、私はぴっとりと自身の頬をくっ付ける。


 きっと、彼はまた消えてしまう。私もまた日常へと戻るのだろうけど、もう一度、いいえ、何度でも彼に会えると信じている。確信、している。
 閉じた目蓋からは何故か涙が流れたけれど、私の背中を慰めるように擦るその手に私は、確かな幸福を感じていた。