ぱちぱちと、金色の泡が表面につぎつぎ昇っている。
欠伸をしたらなんとなく眠たくなってきた。
なまえはさっそく目の前のまぐろのぶつに箸をつけて「銀時も食べるでしょ?」と聞いてくる。俺はまぐろのことなんかどうでもいいのであいまいに返事をする。
知らないうちに皿にのっていた銀杏を口に入れて、ああもう秋かなんて的外れなことを考えた。季節の事なんか、最近気にもしてなかったな。秋って他に比べて影が薄いってーか、特別感がねェのよな。
「銀時さ、このまえ誕生日だったよね」
「あー、そうか、そうだった、また余計に歳くっちまったよ」
「年とること、べつになんとも思ってないくせに!でも、おめでとうね」
こちらを向いたなまえとやっと目が合う。頬がいつもよりも丸い気がする。
こいつもまあ俺と同じだけ歳をくってるわけで、そりゃ毎日変わってくよな。その変化のことを、俺はどのくらい知っているのか。これから、どのくらい教えてもらえるのか。今の俺にはわからないし、知るすべもない。薄情な話だ。
「ほんとおめでと」ひどく薄情な話なのに、なぜだか笑ってしまうのだ。こいつと目が合うと、俺はおもしろくもねェのに小さく笑ってしまう。
「だから今日はねぇ、誕生会兼スペシャルパーティー」
「そうなの?俺が主役?今日もお前のくだらねェ話聞くだけだと思ってたわ」
「違うよ〜、っていうかくだらないって酷くない?」
「いやいや銀さん別にお前の恋バナ興味ないから、女子会じゃねぇのよ」
「はは、安心して、今日はなし!」
「っていうか、昨日別れた」なまえはするっと目をそらすと「あ、おじさんありがと〜」と笑顔を作ってだし巻き卵を受け取った。
「…は?」
「いや、だから、別れたの」
「たまごおいしそう!ふわふわ」大根おろしに醤油をまわして、小皿にとりわけながらなまえは言う。
「え、なんで?」
「別にいいじゃん、今日はなしなんでしょ?」
「いやいや話が違うだろ、俄然気になるんだけど」
「なんで気になるのよ」そう聞くと、一気にたまごを口にいれて、なまえはうれしそうに頬張っている。いやお前、だし巻き卵ひとくち目選手権優勝か。自分で爆弾落としたそばからよくうまそうに食えるな。
「そりゃ気になるわ、だってホラ、なんだかんだ何年も一緒にいた野郎でしょ」
「うーん、でも銀時よりは知り合ってから短いよ」
「それとこれとは話が違ぇだろうが」
「…えっ、違うの?」
たまごを咀嚼し終えたなまえ がまたこちらを見る。本日2度目。
珍しく数秒間、じっと見つめあってしまって、今度は俺が気恥ずかしくなって目をそらす。
パチン、銀杏がはじける音がする。
いまさら俺たちのあいだにどぎまぎした空気が流れるなんて想像してもみなかった。まあ向こうはどう思ってるかまったくわかりゃしないのだが。
(20.10.27)