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出口をもとめて歩いていた。
えんえんと、歩いていた。

人ごみを、商店街をえんえんと、歩いていた。
たまにしらない人とぶつかった。気にせず歩いていた。
さわがしい、純情商店街。
あなたの背中を蜃気楼に見る。

これを単なるノスタルジーだと思うの?

あの日の答え合わせをしようよ、
ひとりだとすこし寂しいから、
どうぞふたりで。

あなただってものを食べるし
すこしくらいは眠るのだ。
そういうことをはじめて知った、あの町で、わたしたちは答え合わせを。

…すべて夢だっただなんていわないで。いわないで。

海が燃えるのを待っていた。
えんえんと、 待っていた。

今日から外気がひどく冷えるから、身体をあたためてから眠ろう。
すれちがう人はみんな洋服を着こんで、



「やあ久しぶりだね」


頭がおかしくなったのはいつからだろう、覚えてはない。
待ってる、待ってる、この世でいちばん早い、いきもの。あなたのことだけを。 

「あいかわらず酷い顔だ」

死にたい死にたいと言っていた、私は。
あの頃よりも、すこしは、マシになったでしょう。

「きみは変わらないね、笑っちゃうくらい」

頭がおかしくなったのはいつからだろう、覚えて、ない。
この街に取り残されて、何年たったんだろう。
ここはあの頃から何ひとつ変わっていない、あの頃のまま、
ねえ聞こえてる?あのお店でわたしはワンピースを買って、

それをあなたは、

まぶたをこするとぼやけた視界が晴れていく。
ピントががゆるやかに合って、輪郭がはっきりとくっきりと描かれていく。

あなたは、あの頃と同じ、黒いVネックのシャツを着ている。一枚だけ。アウターもない、季節外れの格好。ねえ寒くないの?どこから来たの?と尋ねたくなる。あなたは、
やっぱりふんわりと浮世離れしてる。
あなたは、
あの頃と同じ赤い目で、あの頃と同じ薄い身体で、
ねえそんな細い肩、腕でちゃんと生きていたの?
あなたは、

「夢だと思ってる?のんきだね」

…ああ!海が燃えたわ。 
次の瞬間、わたしは両手に持っていたものをすべてアスファルトにたたきつけて、駆け出していた。
鼓動の高鳴りでこのまま身体がこわれてしまうんじゃないだろうか。

「…臨也、海が燃えたわ」

その胸に寄り添うと、なつかしいにおいがした。
臨也はわたしが飛びついた反動ですこしだけ、体勢を揺らした。
猫背になって、わたしの重みを吸収する。細い体躯。
片頬と手のひらを臨也の身体にぴたりと添わせる。
薄い筋肉が、ゆったりと動いている。

「違うよ、おれが燃やしたんだ」

物騒な声色には似合わない、やさしい触れ方が臨也らしいと思った。
あまくてずるくてやっぱり溶けてしまいそうだった。
ゆっくりと顔をあげると、逆光がひどくまぶしい。
あたりは一面、この世のものとは思えないような奇跡のような色をしていた、
商店街は紫色のマジックアワーだった。

ああ、あなたがいるのはどこでもない、この海だったのに。
燃やしてしまったのね。
答え合わせはしなくてもいいから、
どうかわたしにこの次の、
あたらしい世界を見せていて。

「おねがい」

わたしがつぶやくとあなたは笑った。愉快そうに。
それをみて、わたしは胸がいっぱいになって、ついぞ張り裂けそうだった。


(20.11.16)



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