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銀時のこと、友達だなんて思ったことはない。
かといって「だって、ずっと好きだったから…」みたいなありきたりな展開でもない。ヤツに惚れたことがないのだ。そもそも素性も出自もよく知らないし。

銀時とは、わたしが16の時、そして彼が19の時に偶然、街で知り合って、それから何度も一緒に遊んだ。どうやってなかよくなったのかは忘れた。かぶき町のゲーセンだったか甘味屋だったかでふいに意気投合したんだと思う。珍しいことだけど、別にセンセーショナルな事件でもなかったのでその日のことはぜんぜん覚えてない。
当時の年齢がなんといっても絶妙で。ほどよく大人になりかけていたわたしたちは、性欲や恋人関係が絡んだ時の人間同士の淀みというものをにわかに知りかけていた。だからこそ、あえてそれを挟まずに仲良くなる選択ができたのだと思う。それから長年にわたる銀時との関係は、当時の自分たちの潔い選択があってこそだった。べつに学校や仕事場やなんらかの所属グループが同じなわけでもないわたしたちは、連絡先だけは知っているものの、会っても会わなくても支障のない関係だった。それなのにお互いに居心地がいいとは思っていたから、ちょこちょこと理由をつけて街で落ち合った。わたしたちにとってはいつも、街のどこかが待ち合わせ場所だった。


そのあとも数年間、おたがい恋人ができたり別れたりして、まあつかず離れずといった感じ。
気が向けば忘れたころにかぶき町で酒を飲む。失恋すれば冗談で「銀時、いつか結婚しよ〜」なんて言ったりして。そのときの銀時の返事といえば「はァ?イヤに決まってんだろ、俺にも拒否権っつーもんがあんのよ」だったり「おーおー、いつでも来い、年内に籍入れるぞ」だったり、コンディションと状況によってさまざまだった。でも、とにかくわたしたちは、相手を異性として意識しすぎることなく過ごしていた。


23の時に一度だけ。
とてもとてもしんどいことがあって、銀時を呼び出して、べろべろになるまで飲んだことがある。その日はいつもと違っていて、わたしは今日中に死んでもいいような、絶望的な気分だった。わらをもつかむ思いで、銀時に連絡して飲んでいた。だからもう、酔いで前後不覚になってしまっても、もはやなんとも思わなかった。恥というものは捨てていた。
一軒目で泣いて、二軒目で泥酔して、三軒目でまた泣いて、そのあとはなだれこむようにホテルに入って、はじめてセックスをした。してしまった。あとから知ったのだが、彼もそのあとすぐに「ジョーイセンソウ」?だかなんだかの関係の友人?と血なまぐさい争いをしたのだと聞いた。おたがい気持ちに余裕がなかったんだろう。目の前の相手になにかを託して、必死にすがっていたのだと思う。そういうイレギュラーな事態だった。仕方がなかった、んだと思う。(そのときの銀時のキスはやけに優しくて、溺れそうなほど柔らかかった。ただの同情のふりをして、本当は世界中のいろんな感情を合わせて詰め込んだみたいな、いっぱいいっぱいな行為だった。今でもごくたまに、本当にたまに思い出す。決して美化しているわけではない。離れていても確実に、いまも存在しているであろう遠い町の景色を思い出すような感覚で。気を抜くとふとよみがえるのだ。)


とはいえ、その日以外はあとにも先にも、フレンチキスすらせずにここまでやってきた。
今わたしには恋人がいるし、彼も彼でよろしくやってるみたいだったから、心配はしてない。
まあ、心配するような間柄でもないわけなのだけど。


なんとも妙な関係性だ。


久々に銀時に呼び出されて、こじんまりとした馴染みの居酒屋で生のジョッキを傾ける。喉がキンと冷えてうまい。エクストラコールド。あとは熱々の串焼きに手をつけたり…焼き鳥はやっぱ塩だよね。銀時はタレの方が好きらしいので、いつものように別皿で頼む。食べ終わった串を片付けつつ、銀時の声を話半分で聞いている。

「で、どう思う?なまえちゃんよォ」

「別に、わたしは銀時が無事ならそれでいいよ」

わたしが笑うと銀時もふっと気が抜けたように笑う。時々肩がぶつかったり、指先がすれ違うことすら懐かしくて、愛おしく思う。あなたのことを愛している。これは恋ではないけれど、あなたをとてつもなく想っているよ。

わたしは銀時のこと、友達だなんて思ったことは一度もない。だからといって異性として恋してもいない。ただ、強く強く思っている。
にも関わらず、互いの出自も素性もしらないわたしたちは、葬式にすら呼ばれないのだろう。お互いの死すら知ることができないのだろう。生きている間だけの関係。とても寂しいことだけれど、わたしたちらしくてちょうどいいかな、とも思うのだ。


「ねえ銀時、だいすきだよ、まだまだ元気に生きててよ」

「おー…んだよ急に、真剣な顔しちゃって」


生きてる間はあなたのために


あなたに惚れたことがない、なんて言ったけど、
出会った時からわたしはあなたにうっすらと、惚れ続けているのかもしれない。
ふわふわ揺れる銀髪も、たくましくてやさしいその腕も、わたしのものではないけれど。
この距離感が心地いい。
あなたもそうだといいなと思う。

(20.10.03)



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