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桜の花はもう散って、芽吹きの春も終わりゆく。夏になり葉が茂る頃も、私はこのまま生きてるだろうか。
自分の好きな人の幸せを、いちばんに願える大人に、私はなりたかったのだ。あなたもそうかもしれないね。

牛乳パックを冷蔵庫にしまい忘れていたことに気づく。嫌な気持ちになって見て見ぬ振りをする。あなたはこれをしまいはしないだろうから、私がしまわない限り、牛乳パックは放置され、ここにあり続けるのだろうと思う。なんとなく無情といった感じだ。私がすべきことをしないばかりに、彼が出来ることをしないばかりに、牛乳は腐ってゆくだろう。なんとなく無情といった感じだ。

銀時の様子が昨日からおかしかった。口数も少なければ目も合わせない。それにいつも以上に布団からでてこない。絶対におかしいのだけど、私は何も言わなかったし何も尋ねはしなかった。それが愛だとおもったのだ。触れないことが愛であると。彼もそれが愛だと感じていればいいが、そうじゃないかもしれない。分からないけど、分からないから、私はただ黙っていた。余計なことをしたら、相手を傷つけかねないばかりか、後悔するのはいつも自分だからである。

でも、少なくとも、灰色のジャージのままゴロゴロしている銀時に、何かしら食べさせなければな、とボンヤリと考えていた。料理は嫌いじゃない、食べることだって好きな方だけど、いま、買い物にいくのはすこし面倒だった。


「お前さあ、未来のこととか、考える?」

銀時が虚ろな眼のままで尋ねる。

「考えるよ、ある程度はね」

「そっか」

「考えたって仕方のないことの方が多い気がするけどね」

「まあな」

それっきりまた口をつぐもうとするので、今度は私が問いかけてみる。

「銀は考えるの?これからのこと」

「考えたくないね、何も」

「何も?」

「ついでにお前も何も考えなければいいなと思うね」

銀時はそう言って目を閉じる。

「未来を考えなければ、私たちが行く先には何があるの」

「そんなこたァわからねぇけど、俺はその方が気が楽だわ」

そこまで聞いて、俺に将来を期待するな、と言いたいのだな、となんとなく察しがついた。
彼は自分勝手なくせに、私がため息をつくと、まるで迷子みたいに不安そうにした。近寄って、軽く抱きしめてやる。

「…いくなよ」

「なにが」

「どこにも行くなよ、先を見たって何もねえよ、少なくとも予想した答えは待ってないから」

「…」

「裏切られて欲しくないんだよ、世界にも俺にも、だからお前は何も期待するな」

さわっとレースのカーテンがなびいて、銀時が私の目を見つめる。いつもより少し、滲んで曇っているような気がした。

「…でもよォ、やっぱ俺のそばにはいて」

銀時が寝返りを打ちながら、私をぐっと引き寄せる。そのせいで私はバランスを崩して倒れこむ。床にぶつかった肩が痛むなあと思いながら春風に吹かれて、もう幸せなんていらないな、と思った。


全然咲かないけど、それでもいいや(15.04.29)



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