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起きたらもう時計は四時をさしてた。朝だか夜だかわからなくって、テレビをつけたらワイドショーをやってた。
落としきれていなかった化粧を落として、ため息をつく。昨日おとといと夜遅くまで飲んだでいたせいで、肌がボロボロになっていた。聞きたくもない先輩の武勇伝をつまみに、飲みたくもないお酒をのんだ。わたしはお店の水槽に生きる熱帯魚の方に夢中だったけど、彼はけっきょく終電ギリギリまで語っていた。わたしの肌、ワントーンもツートーンも暗い。ああもういやだ、つまらないし疲れてしまった。

どうしようもなく、ヤツに会いたい。最後にあったのは四ヶ月くらい前になるのかな。どうせ会ってもセックスしかしないだろうけど、そんなことはわかっているけど、会いたくてたまらない、会いたくてたまらない。疲れた時はいつも無性に、ヤツの声が聞きたくなる。

「もしもし、山崎、わたし」

トロトロとした視界でヤツの名前を呼んだ。通話ボタンを押した指を、すこしだけ呪っている。

「なんだ、なまえか」

きゅうっと胸がつまりそうで、わたしは一拍呼吸を早める。

「悪い?」

「いや別に。用件はなに?」

「会いたいんだけど、今夜」

そう言うとヤツは小さくため息をつく。ああ嫌そうだなあ、やっぱりとても後悔をする。会いたくて会いたくて電話をかければ少し嫌がられて、もしも会えたって飲んですぐ酔っ払ってやるだけ、そんなことはもう嫌ってほどわかってるけど、会いたくなるのが恋なのです。「ねえ、山崎、無理?」わたしはひとつ息をのんで語調を強める。

「わかったよ、8時に駅前のロータリーね」

「了解、じゃあまたあとで」

諦めたように笑うヤツに、ありがとうも言わないで電話を切る。


言葉にならない悲鳴をお腹の中から出し切って、ベッドにダイブする。死にたいと思った。毎回毎回、ヤツに電話する度に、死にたいと思う。だけど10分後にはまた、生きて立ち上がってクローゼットを引っ掻き回すのだ。どうせ結局、デニムとトレーナーと、それからスニーカーになるのは分かっているのに、わたしは懲りない。エメラルドグリーンのカーディガンや黄色のワンピースを引っ張り出して、ぐちゃぐちゃと山にしてから家をでるのである。



「山崎」

待ち合わせに15分遅刻していくと、ガードレールに座る山崎がみえた。あの横顔が見たくって、私はいつも遅刻をするのだ。少しの間だけだって、私のことだけを考えるアイツ、私だけを待つアイツ。遠くからみてもかわいい。どうしたって、かわいい。全部にチューしたいくらいかわいいけど、ヤツは「だめだよ」と目を細めて、チューだけはしてくれないのである。ならセックスもしなきゃいいのに、最低なヤツ。だけど会いたい、どうしようもなく会いたい触れたい声を聞きたい。それが恋というものなのです。

3秒後、私は大きく息を吸い込み、彼に抱きつくだろう。
若く悲しい男女二人に果たしてハッピーエンドは訪れるのか。


恋というものです。(14-12-04)



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