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ハロー

休み休みここまで来たけど俺は君に何かをあげられたのだろうか。最近はそんなことを考えるけど、答えが欲しいわけじゃない。頭がおかしくなりそうな音を止めて、ふっと意識を飛ばす。ここ最近で心地いい睡眠なんて、とれたことない。指の関節がゆるく動いて、キーンと眉間に響く痛みに目を開ける。

ぽかぽかしているくせに、じんわり寒くて、心細い。季節の移り変わりがひっそりと怖い。俺も彼女もそんな歳になったのかと笑う。ありふれたものを敬遠してしまう俺たちに、いつになったら幸せなんてものが訪れるんだろうか。幸せになんか興味はないけど。俺はいつからかとっくに、そんなもの諦めてるんだけれど。


ハロー

「君は知らないかもしれないね、でも本当の幸せっていうものは、誰に対しても依存しないことなんだよ。」そんなことを言ったら君は泣いたね。「わたしは、一人で幸せになんかなりたくない」そう言って泣いた。でもそれは真実でね、ほらこうやっていつまでも、君も俺も存在しているわけじゃない。変わらないものなんてありはしない。

金があれば幸せなのか?愛があれば幸せなのか?会社は明日潰れるかもしれないし、家に泥棒が入るかもしれない。子供は結婚して遠くに行くものだろうし、俺は明日死ぬかもしれない。
そんなときにさ、君が変わらず、いきていられるように。

俺は君に幸せを教えたいと思う。

この俺がそんなこと、教えたって説得力がないって言う?やめてよね、俺は幸せだったんだから。とうとう君を抱くまではずっとずっと、幸せだったさ。


ハロー

聞こえているといい。まだ、聞こえているといい。あの頃は全部ぜんぶ過去でね、鍵をかけてしまった過去でね、そんなものは、これからの生活へなんの足しにもならない。知識や経験は別だけど、思い出や感覚はなんの意味もないんだ。だってほら、細胞はたった七年ですっからかんに入れ替わる。俺に触れていた君のその断片は、七年後にはもう一つも残ってない。
そうやって考えればわかるだろ。涙だって写真だってこの声だって無意味なんだ。このままゆっくりと自然に、俺の声を忘れる君へ。最後に。もう遅いかもしれないけど、最後に。


ハロー

俺のことなんてほんのたまに、ほんのたまに、遠くの町のさびれたホテルを思い出すようにほんのたまに、記憶の端に置いといてくれればいい。それまで俺は、天井の木目でも数えて生きていよう。
誰も信じちゃいけないよ。誰にも心酔しちゃいけないよ。いつかわかる時が来る、自分以外は誰だってみんな他人だってね。どこかで狂ってしまうんだ、自分以外は誰だって。君がもし今そこにいる誰かを好きになったとしよう、その誰かを愛したとしよう、でも次の瞬間、そいつは君の敵になるかもしれない。そいつがもし君を好きだと言ってもそれを鵜呑みにしちゃいけない。そいつが君の敵になった時、君は傷ついてしまわないように、ただ慎重に生きなきゃいけない。俺がうっかり君にたいして好きだと言った時でもそうだ、君は信じちゃいけないんだよ。誰にも全部を委ねちゃいけない。
君が、君の力で、いつまでも立っていられますように。
俺がいない明日でも、ぶれずに生きていけますように。


ハロー

冷たいことも言ったけれどさ、俺が君に教わったこともある。人の温もりが少しだけ、病気を治すかもしれないこと。価値観の歪みを、良くも悪くも治すかもしれないこと。
難しく考えたりしちゃいけない。愛ってのだって悪くはないよ。悪いものなんかじゃない。だって俺はずっと君には愛を感じていて欲しかったし、これからも感じ続けて欲しい。でも本当に思うんだ、どうかボロボロにならないで。光のなかを生きていて。俺の見ていた君のままでいて。なにも、失わないでいて。
本当のことを言うとね、君を抱いてから俺はずっとずっと、幸せだったさ。ああもうこれ以上、言葉なんか見つからないなあ。



ハロー



今君に素晴らしい世界が見えますか?





今君に素晴らしい世界が見えますか
(14.01.19)



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