book | ナノ


「好きだの嫌いだのよくわかんない」って、確かにわたし、二年前までそういってました。大げさに斜に構えちゃったりして、愛も恋も男もオンナも、全部信じてませんでした。永遠なんて、犬も食わないマズイ飯くらいに思ってました。なにがなんだかわかんなくて、何のために生きてんのとか、何のために誓い合うのとか、避妊してするセックスなんてなんの意味もねーのになんて、思いながらセックスばっかりしてました。わたし、戦火にもテロにも天災にも遭わず、生産性も理由もねーセックスばっかりしてました。

あの人がわたしの元に現れたのは、 ちょーど今から二年前のこの時期で、蝉がやかましく鳴いてる、クソみたいに暑い日でありました。アイスもドロドロで身体もドロドロで、何もしたくなくてわたし、新宿歌舞伎町の二丁目の入り口辺りにつったってました。遠くからみても、頭の弱いバカだって、丸わかりだったと思います。


「君、なまえちゃんだよね?」

あの人は薄く微笑んで、わたしに声をかけました。わたしは、久々にイケメンが引っかかったわぁ位に思っていて、その人がわたしの名前を知ってることなんて、どうだってよかった。わたしはただ、お金が欲しくてセックスがしたくて冷房のついた部屋にいきたくて、もうただなにもしたくなかったのです。

話を聞かないわたしを尻目に、いやに笑顔なあの人は「ついておいで」と呟くと、ホテル街に入っていきます。右に左にホテルがあって、ついでにあそこらへん特有の嫌な匂いがするはずだけど、もうなんにもわからないくらいにわたしはバカだったのであります。テルテルテルテル。適当なホテルに引き込まれて、部屋をとる、エレベーターに乗る、鍵開ける、ドア開ける、シャワーのドア開ける、投げ入れられる、それから水をぶっかけられる。「きったないなあ」そう罵られながら何度か蹴られて、水でビチャビチャになった服を脱がされて、そこでそのまま何度かヤりました。


「俺は折原臨也ね、わかる?」

びしょ濡れのわたしを丁寧に拭きながらあの人は唐突に言いました。シャワーの時とは打って変わって優しい手つきで、髪も背中も足の先もゆっくり拭いてくれました。顔も腰も足も身体中が痛くて、頭もよく回らなかったけど、その特異な音に聞き覚えがありました。オリハライザヤ、オリハライザヤ、わたしはそれを、何度も聞いたことがある。「俺はね、君とおんなし高校の生徒だった、同級生」彼に言われてハッと思い出します。あああのオリハラくんか、よく知らないけど有名人だった、あのオリハライザヤだ、そうだ。

それからというもの、オリハライザヤは何度も何度も気まぐれでわたしを訪ねてはわたしを風呂にぶち込み殴り蹴りセックスをして、最後には優しく触ってくれました。オリハライザヤの目的は分からず教えてなんてくれなかったけど、わたしは不思議とそれが不快ではなかったので甘んじて受け入れたのであります。そうですわたしはバカだったのです。

オリハライザヤは少しずつわたしに愛をささやき始めました。まるで暴力の反動のように、セックスのあとは甘い言葉をくれました。わたしはそれはそれはバカで頭が弱かったので、最初は意味が分からなかったのですが、あら不思議、何度も囁かれている内に、心がまあるくなったのであります。わたしは言葉をしゃべりだし、彼のことをオリハラと呼びました。ちゃあんと、最後は「オリハラ、好き、好き」なんて言ってイッて、まるでバカ丸出しであります。オリハラはね、わたしがいなくちゃ生きられないなんて、いけしゃあしゃあと言っておったのでありますよ。あの馬鹿は、そんなこと、言ってた。

一年もしたら昼間にデートなんかもしちゃって、だいたいヤってただけなんだけど、たまには外も歩いたりして、わたしたちカップルなのかちら、なんて幻想を夢見るほどでした。オリハラは休まずわたしに甘いこと言い続けて、「ずっとずーっと二人でいよう」「ああ君がいなきゃ呼吸もできない、世界は完成しやしないんだ!」なんて、阿呆らしい。わたしは最初にボコボコにされてたことなんかは忘れて、オリハラがどんな仕事してるかなんかも知らないで、「オリハラ、わたしも」って目をハートにしちゃいました。そこらへんでわたしは、この地球はわたしとオリハラで出来てんだって信じ始めて、そしてそれは永久不滅なんダワって思い始めました。



だけどオリハラ昨日言いました。

「こんなはずじゃなかった、まるで馬鹿みたいなんだけど、君のことが愛しいかもしれない」

わけがわからなくなって、何度も意味を聞きました。どうやらわたしのこと、最初から好きじゃなかったんです、あの人は、オリハライザヤは。だけど哀れでカワイソでもうなーんか愛しくなっちゃったんだってサ。ああ冗談よしてよ、本当に。だって、だって、なにがおかしいって、彼、言ったのよ。


「人間はさ、最期はどうせ一人なんだよ、だから怖い、君と離れるのが怖い」


知らなかったの?わたしかあなた、一人が死ぬと世界がおわんの。それをしらないオリハラはわたしのこと好きじゃない、前も今も好きじゃない。昔のことは百歩譲って水に流しましょう、でも今も、今もあんたは間違ってるんだ!そんな考え正しく無いし、そんなんでわたしが愛しいだなんて、なめてるとしか思えないのです。要するに、わたし、わけわかんなくてもう、振り出しにもどっちゃいそってこと。永遠なんてない、永遠なんてあるわけない。



愛も恋も男もオンナもだーいきらいって今ならもいちど、叫べるわ。

オリハラに抱かれながらだって、叫べるの。ああ無意味な交渉!




僕らなんて無機質ですよ(13.08.06)



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -