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*同性愛表現あり





 冬花ちゃんはたぶんきっと、ううん、ぜったいに円堂くんがすきだ。ひとりの男の子として、彼女は彼がだいすきだ。この世界にありふれた、60億を越す個体の中から、冬花ちゃんはあの人を選んだ。夏未ちゃんも、秋ちゃんも。



 同性愛は性的逸脱である"
 分厚く堅苦しい本の上に連なった文字を指で辿る。つまりは罪、ということなのか。けれど、たとえ世間一般から逸脱しようと、罪とみなされようと、わたしは彼女に惹かれているのだ。ヨシュアはこんな女をどう思うかしら。





「名前さん」

 鈴のような声がわたしの耳に届く。振り返ると、申し訳なさそうな表情で、冬花ちゃんが立っていた。


「読書の邪魔をしてしまって、ごめんなさい。もうすぐ、午後の練習が始まるから」

 わたしは首を横に振って、ありがとうと冬花ちゃんに返す。彼女の緩む顔はどんな花よりも美しくて輝く。わたしの心臓はそんな彼女の天然の花に高揚した。
 本を棚にしまって、冬花ちゃんと一緒に図書室を出る。登校日ならありえない静まり返った廊下に、わたしと冬花ちゃんの足音だけが響く。



「よく、あそこに居るって分かったね」
「半田くんが、図書室に居るだろうって、言ってくれて」

 わたしはほんの少し、わたしと彼女の繋がりに、絆に期待したのだ。もしかして冬花ちゃんは一人で考えて、ここにたどり着いたのではないかと。浅はかなわたしは考えたのだ。

 わたしと冬花ちゃんの間に絶対的な絆なんてありやしない。わたしが一方的に手を伸ばしているだけだ。





 屋外に出ると、わたしたちをさんさんと照らす太陽に思わず目を細めた。眩しい。


 グラウンドまで歩きながら冬花ちゃんとぽつぽつと会話を交わす。

「午後のスタート、何て言ってた?」
「一時間ほどポジションごとに練習して、それから紅白戦だそうです」
「そっか、忙しくなるね」
「はい」

 冬花ちゃんの微笑があまりにもきれいだったので、わたしはつい顔を逸らした。本能的にしてしまった行動に瞬時に後悔する。不快に思われなかっただろうか。わたしは心配になってもういちど彼女の方へ首を回す。そこには変わらずの笑顔があり、わたしは胸をなでおろした。

 この笑顔が、この声が、冬花ちゃんが、わたしはだいすきだ。



「おーい、始めるぞー!」

 ベンチから大きな声を出して、わたしたちを呼ぶ円堂くん。手をはちきれんばかりに振るものだから、わたしは「はーい」と大きく返事をして、冬花ちゃんと共にみんなの元へと走る。


 みんなの元へ着いて、周りを見渡すとどうやらわたしが最後だったようだ。ごめんなさいと謝罪をすると円堂くんは笑顔で大丈夫、とわたしを慰めた。冬花ちゃんもごめんなさいと申し訳なさそうに謝り、それをまた円堂くんが慰めた。

 冬花ちゃんはまた花を咲かせて、円堂くんと話す。さっきまでわたしが独り占めしていたあの花を、今度は円堂くんに渡すのだ。
 同性愛は性的逸脱である"その文字がわたしの脳内を今一度駆け巡った。明らかな嫉妬心も入り混じって、わたしの身体は今にも崩壊しそうだ。冬花ちゃんがだいすき。たったこれだけの事実で。



 彼女の花を独り占めする円堂くんに思わず目を細めた。羨ましい。

 楽しそうに話す二人に思わず目を細めた。憎らしい。





イヴの花を摘みとりたい


(わたしの手元では、きっと枯れてしまうだろうけど)


※キリスト信者内でも、同性愛を罪とするかしないかは個人の考えによるそうです。



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