「あーあ、また失恋か」
教室の窓から外を見ながら呟く彼女。下に見えるグラウンドではサッカー部が声を張り上げて走っていた。
彼女の口から出たその言葉を俺は何度も聞いたことがあった。
「好きな野郎が出来たんなら、そいつのことが好きな奴がいても応援なんかしなけりゃいいんでィ」
俺がそう言えば、いつものように彼女はため息をつく。
視線はそのまま窓の外。
「いやいや、それが出来ればこんな苦労しないって」
…こいつは、とんでもないお人好しだ。
何でも、友達の恋を応援して叶えてあげることに生き甲斐を感じてるらしい。…ただのアホだ。
「おまえ、いつまでそれ続けるんでィ」
「いつまでかな…?」
曖昧に言葉を濁す。こいつが止める気がないことは、もちろん俺も知っている。
「あ、そーだ。沖田のことが好きだって相談された。誰とは言わないけどね」
「お断りでィ」
「だと思った。だから、その子には曖昧なこと言ったし」
どうもこいつの周りには、たくさんの女友達がいる。みんな、こいつを頼って相談事を持ちかける。
口の固いこいつだから、と安心してみんなが相談をするもんだから、こいつはヤバい情報もたくさん持ってやがる。
だが、口が固いというのは俺以外には有効なものだった。
俺にとっては、それがちょっぴりの優越感だったりもする。こいつの特別でいられる気がする。
「沖田はさ、好きな子とか居ないの?」
「…いやす、」
そう言えば、背を向けていた肩がピクリと動いた気がした。
「…沖田に告白されて、断る女子は居ないよねー。何、あたしが知ってる子?」
「もちろん、知ってやす」
「…あたしも、実は一途なんだよね」
「どこがだ」
「…超失礼なんだけど」
「次々と好きな野郎変わってるじゃねぇか」
「…それは、…うん」
外を見たまま、モゴモゴと何かを言いたそうにしている。
「あ、あれね、全部ウソ!」
「…へー……、はァ?!」
「あたし、ホントは一途でさ。結構アピールってか、一緒にいるつもりなのに、気付いてくんないんだよねー、全く…鈍感鈍感」
鈍感なのはどっちだ、と言い返してやりたいがその言葉をぐっと喉の奥に押し込める。
「なら、俺があんたみたいに応援してやらァ」
「えー…、知りたい?」
「当たり前でィ。俺に嘘ついた罰だと思いなせェ」
一か八かだ。
こいつがなんと言おうとも
僕の名前を呼んでくれたなら
(君がこっちを見てくれるなら)
(俺は君を力一杯抱きしめよう)