夕暮れ時になり、ルーシィとロキは並んで家路についていた。いつものように優しい彼に昼間感じた違和感を忘れようとしたルーシィだったが、どうしてもあの表情が頭から離れなかった。

「ねぇ……。」
「ん?」
「その…誕生日のことなんだけど。」
「ああ、誕生日?祝いは本当に要らないよ。」
「そうじゃなくて!」

立ち止まり、少し怒っている彼女に首を傾げて「どうしたの?」と戸惑うロキ。ルーシィの白い肌に優しく触れるとじっと見つめられる。

「誕生日、日にちはいつなの?」
「え…?」
「皆でのお祝いは要らないかもしれないけど、やっぱりあたしは…あんたの誕生日ちゃんとお祝いしたいの。」
「…ルーシィ…。」

ルーシィの気持ちは嬉しいがやはり少しだけ抵抗があった。自分の誕生日はあまり思い出したくない日、特別な日、そして悪魔の日だと、ロキの中では切り捨ててしまいたいものだったから―。

「……―僕は星霊だ。誕生日なんか特にない。だけど…カレンとの一件があって、妖精の尻尾に入ることになったから…カレンの命日を誕生日とした。」
「……ロキ…」
「僕がロキとして生きていくことになった日だよ。だから…あんまり思い出したくない日でさ…そんな日に祝いなんて…なんだかカレンに申し訳なくて…。」

ロキが未だ、自分を責め続けていることはルーシィも知っていた。俯いたままのロキの手を取り、ルーシィは笑顔を見せる。

「…ね、ロキ。」
「…。」
「カレンとのことは確かにあんたにとって辛いことだったと思うわ…けど…今、隣に居るのはカレンじゃないわよ。」
「…!」
「それにきっと…ロキにそんな風に思ってほしかったわけじゃない、と思う。」
「……。」
「少なくとも、あたしがカレンの立場だったら―ね。」


柔らかく微笑むルーシィがロキの手を握ろうとし、ロキもまたそれに応えようと手を差し出したその時―ルーシィの姿が目の前から急に消える。突然視界から消えた彼女に、ロキは鼓動を落ち着けるのに必死だった。

「…ルー…シィ?」
「無様だな、獅子宮のレオ―。こんな女一人に執着するなど。」

―どこかで聞いたことのある声が頭の中に木霊する。ロキが少し遅れて声が聞こえてきたほうを見上げると空に漂う黒い影が青白い表情のルーシィを抱えていた。

「お、お前は…!!」
「久しぶりだな、レオ。」
「ディアボロス…!!!!!」

おぞましいその身なりにロキは背筋に冷や汗を伝わせた。皮と骨だけの身体に、削いだ鼻…目にしたものは皆恐怖に顔を歪めるであろう、醜い闇の王がそこには居る。

「……なぜここに居るのか、とでも言いたげだな?」
「…ああ、そうだな!ルーシィを離せ!!」
「そんなにこの女が大事か…ならば尚更返す訳にはいかないな。」
「……やめろ!!!」

ディアボロスと呼ばれた男は鋭く尖った石のような塔を創り出しそれにめがけてルーシィの小さな身体を宙に放った。簡単に串刺しになったルーシィは一瞬で紅い血に染まる。

「ああああああああああああああ!!!!」

叫び声が空に響き渡ると同時にロキはディアボロス目掛けて王の光を放った。辺り一帯が光に包まれて、明るい光が差し込んだかのように見え、串刺しになったルーシィの元へ走りだす。

「…はぁ…はぁ…ルーシィ!!!!!」
「浅いな。」
「!!!!!」

背後を振り返ればロキの真後ろにディアボロス―彼が表情一つ変えずに浮いていた。手を翳した瞬間にルーシィの姿がキラキラと消えていきそれが幻影だったのだと気付かされた。

「忘れたか?俺が幻影を見せる魔法を使うことを。」
「はぁ…はぁ…」
「…女はあそこだ。」
「……ルーシィ…!!」

ディアボロスが指差すほうに目を向ければ彼と同じような黒い服をまとった闇に身を落とした影が12人―。そのうちの一人がルーシィを抱きかかえていた。

「きゃはははは!!なーんだってこんな女がいいのかしらね、レオってば!!」
「リリス…うるさいぞ、喋るな。」
「ふん、なによ?あたしに指図する気?」
「ディアボロス様の前だ、態度を改めろ。」
「二人とも、じゃれてる場合じゃねーだろ?」

空はもう、色を無くしている。闇の手中に落ちたルーシィの身を案じながら、ロキは嘔吐感に苛まれ胸をぎゅっとおさえた。

「……………嘘だ…。」
「嘘ではない、現実だ。時は満ちた…。今こそお前に―いや、星霊界を闇の世界へと誘うとき…」
「…!!だったらルーシィは関係ない!!」
「あるさ。…俺を長い間封印したのは…お前だ。」
「…ぐああっ…!!!」

無数の刃に切り刻まれたロキは地面に倒れるも、息絶え絶えにディアボロスを睨みつけていた。力を振り絞り隣に居るセーレが抱いているルーシィに手を伸ばすが、その手はディアボロスに踏みつけられる。

「…ぐっ…ルー…シ…」
「……殺しはしない。お前も、あの女も…まだ、な。」
「………まて…!」




「悔しければ来い。立ち上がり…。」




消えていく彼等さえもぼんやりと視界から遠ざかり、意識を手放して行くロキ。空の色は灰色に染まり、先程までの明るい青空は闇に包まれて消えてしまった。





―遠くで、ルーシィが呼んでいる気がした。




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