線香の香りが鼻腔に届く。大嫌いな香りだ。葬儀に出られなかった僕が見た最後の両親は線香の香りに包まれていたから。あの日心にぽっかりと空いた穴は、姉さんを守るという誓いにより立て直した。だけどその姉さんを守るのはもう僕じゃなくても大丈夫だとわかったとき、また、そのとき塞がった穴が顔を出した。

お参りが終わり、後片付けをしているとポツポツと雨が降り出してきた。せっかく綺麗にしたのに、とミラジェーンが哀しげに呟くと、次は盆にきてあげよう、とフリードが彼女の肩を抱く。レオがトランクに荷物をおきに一度戻ると、雨脚が一層強まりミラジェーンとフリードが駆け足で戻ってきた。

「きゃあ〜、すごい雨ね!」
「このあたりだけだといいんだけど。」
「峠を越えなきゃいけないから、昼ご飯は戻ってからでもいいかい?」
「そうね、あっちは晴れてるかもしれないし。レオもいいかしら?」
「ああ、大丈夫だよ。」

車に乗り込んだレオは、遠ざかる両親の墓を見つめたまま、静かに眠りにつく。レオが眠ったのを確認すると、ミラジェーンは小さな溜め息をついた。

「…年々ね、重くなっているの。レオを縛る鎖が。」
「………そうだね。」
「自分のせいだって…思って、苦しんで…だけど、わたしにはその鎖をとってあげることはきっとできないわ。」

銀色の長い睫に縁取られた瞼が悲しそうに閉じられ、フリードはミラジェーンの頭を優しく撫でた。










更に1週間が経過し、レオに最後に会ってから3週間経っていたが、携帯の連絡先も知らないルーシィには彼に逢う手段がなく、悶々と過ごしていた休日。それでもお気に入りのハーブティーを飲んだり掃除をしたりと日中は過ごしていたが、急にいい話が思い浮かび、15時頃から小説を書くことに没頭していたルーシィは、気付けば19時を回っていることに気がついた。

「んー………」

小説を書いていた手を止め、大きく伸びをする。部屋の灯りをつけて冷蔵庫の中身を確認し、明日買い物に行かなきゃなあ、とぼんやり考えているルーシィの部屋に、雨の音が鳴り響いていた。

「お腹すいちゃったなー…でも作るのもめんどくさいし………でもこの雨じゃなあ…」

外に出るのも億劫、と一人呟きながらバルコニーをがらがらと開けると、アパートの入り口付近に誰か立って居るのが見える。この雨の中ではずぶ濡れだろう。不思議に思い、立ち尽くす人を見つめた。

「あの人傘も差してない…………あれ?」

暗いし三階から見ているためはっきりはわからないが、どこかで見たような髪の色にルーシィの胸がトクンと音を立てる。だけどもしそうだとしたらどうして彼が?そう思ったが、すぐに部屋を飛び出して階段を駆け下りオートロックキーを開けると、ゆっくり、その人に近付いていく。

「…………なに、してるの?傘もささないで。」
「…やあ、ルーシィ。今日も綺麗だね。」
「ありがとう…ってそんなこと今どーでもいいっつーの!風邪ひくじゃない!なにしてんのよ!」
「んー、家出た時は降ってなかったんだけど。」
「ばか!!とにかく、はやく入って!」

無理矢理レオの手を引き部屋に入れると、ルーシィは洗面所から新しいタオルを引きずり出し玄関に立ち尽くすレオの頭にかけてやる。その頭を拭いてあげようとすると、レオの頬が赤く染まり、いい大丈夫自分でやるから、と慌てたようにわしわしと自分で頭をふきだした。

「それだけじゃ風邪ひいちゃうから、シャワーかしたげるから入って行きなさいよ。」
「え!いや、それはさすがに、」
「だめ!あたしの家の前で雨に打たれて風邪ひかれたら、なんだか後味悪いじゃない。」

入って、と再び手を引かれ招き入れられたルーシィの部屋は綺麗に整理されていて、わずかに香るローズの香りの心地よさにレオは安心感をおぼえた。

「とりあえずこれ、たまに来るパパ用のだけど。多分着れると思うわ。あと、新しいタオル出しておいたから。」
「あ、ああ、ありがとう。ごめん、じゃあお言葉に甘えて…。」

そう言ってユニットバスに入っていくレオを見送ると、ルーシィは一気に顔を赤くした。

(な、な、なにこれなにこれ!!現実よね!!夢じゃないよね!!なんであいつがあたしんちの前に?!)

混乱する頭でいろいろと考えては見たが、結局真相はレオにしかわからない。ルーシィは高鳴る胸を押さえながら、なにか温かいものでも作ろうとエプロンをしてキッチンへ向かった。

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