「――………やっぱり駄目だったかあ…」

翌日ルーシィは公園で一人、弁当を広げてベンチに座り溜息をついていた。昨晩意中の人に渡したメモに期待をしていたわけじゃない。だが彼の性格から、女性を拒否することはないとどこかで思っていた。メールや電話が来るかは別にして、この小さな紙切れくらいは受け取ってもらえると思っていたのだ。

「…なけなしの勇気使い果たしたんだけどな…」

店に行かないと言ってしまった手前ロキに会う手段はない。ルーシィは溜息をついてぼーっと空を見上げていた。

「ルーシィ、何してんだよ。」
「グレイ。」

なんでここに―と思ったが、彼が今日は朝から夕方まで営業で外出をしていることを思い出した。どかっとルーシィの隣に腰掛け、グレイは買ってきたハンバーガーを袋からがさがさと出す。学生時代から知っている友達がスーツ姿で働いているのには勤め始めて3年経つも未だに慣れない。社内ではグレイのファンクラブまであるくらい人気がある彼だが女性の扱いは不得手らしく、親しく話すのはルーシィくらいだった。

「なんだよ。」
「う…いや、あんたってかっこいいわよねやっぱ。」
「………はあ?///」

頬を染めて固まるグレイに、しまった、とルーシィは後悔する。告白されている相手の返事を保留にしているというのに今の発言は期待させてしまう言葉であることこのうえない。

「……だ、だってファンクラブまであるくらいだし!」
「…どーでもいいってんなの。」
「でも…」
「……俺が好きなのは学生んときからお前なんだから。」

グレイの言葉にルーシィは身体から熱くなる。確かに、グレイを学生時代から知っているがチャラチャラしている外見とは正反対で、授業もサボらない真面目くんだし成績は優秀だった。浮気もしないし彼女になったら大事にしてもらえるだろう。あの男と違って。

「あ、あのグレイ、あたし…」
「わかってるよ。焦ってねえから、お前の気持ちはわかるし…。けどしょーがねえじゃん。好きなもんは好きなんだよ。」

ぶっきらぼうにそう言うグレイはくしゃくしゃとルーシィの頭を撫でた。もお!とむくれるルーシィを見てグレイはケラケラ笑う。

「ま、ゆっくり考えてくれや。」

煙草に火をつけ、12時半から営業回りがあると、グレイは仕事に戻っていった。残されたルーシィは頬を赤くしたままグレイに撫でられた頭を押さえる。グレイのことは確かに好きだ。それが恋なのかはわからないが一緒にいて楽しいし趣味もあう。父親の再婚を反対し荒れていた時もずっと支えてくれていたのは彼だしナツに振られた時も泣いている自分の隣にずっといてくれた。本当にいい奴だし信頼できる。

「……忘れなきゃ、ね。」

今ならまだ間に合う。あの男に向けていた気持ちも今ならまだ、グレイに向けるのに間に合うのではないだろうか。

「ああもう!悩んでるなんてあたしらしくないよばか!!」

かぶりをふってルーシィは叫んだが、ここが公園だと忘れていた―じろじろと向けられる視線に恥ずかしくなり、ルーシィは居心地が悪くなってそそくさと会社へと足を向けようとした。

「あ―。」

その時視界に入ってきた一際目立つ男性。よく見知った人物が女性と楽しそうに歩いてくる。

ロキだ―!!

隣に並ぶ銀髪の可愛らしい女性と視線が絡まり、ルーシィはぱっと視線をそらした。そのまま気付かれないように会社と逆の方に走り去るルーシィの後ろ姿を、ロキは不思議そうに見つめている。

「知り合い?」
「いや、知ってる子に似てたんだけど…気のせいかも。」
「そう。ね、どれがいいと思うレオ。」

レオ、と呼ばれて微笑む男性は噴水の縁に座り、デジカメを見ながらうーん、と唸った。

「僕はフリードさんと同じかな。姉さんは色が白いから赤いドレスが映えるし顔負けしないと思うよ。」
「そーお?じゃあ二人がそう言うならこれにしようかしら。」
「うん。まあ、姉さんは何着ても綺麗だよ。」
「ふふ、相変わらず巧いんだから。フリードもね、ミラジェーンは何着ても綺麗だって、あなたと同じこと言うのよ。」

穏やかに眉を下げて笑う銀髪の女性はレオの隣に座り彼が買ってくれたシェイクを飲みながら気になっていたことを聞いてみた。

「…ねえレオ?」
「なに?」
「私…もう大丈夫よ。だから…」
「うん…わかってるよ。」
「それならいいんだけど…もうそろそろ自分の幸せ考えてねレオは。」

寂しそうに微笑むミラジェーンを見つめ、レオは大丈夫だよとつぶやいた。

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