「ねールーちゃん、やめたほうがいいよあの人は。」
「……でも、あの人…」
「ホストやってるんだから信用ならないし、ルーちゃんにはもっといい人いるよ、ほら、グレイに告白されたんでしょ?」
「そうだけど―…。」

もうすぐ日付が変わるという時間、それまで居酒屋で飲み語っていたルーシィとレビィはホストクラブの前にいた。1ヶ月前に、恋人だったナツに振られて落ち込んでいた時カナとレビィに連れられてやってきたホストクラブ。そこでルーシィは、失恋したてだったはずだが不覚にも胸が高鳴るのを感じてたのだ。

「あたしやカナみたいに、楽しみたくて来てるわけじゃないでしょルーちゃん。」
「……。」
「あたし常連だから色んな話聞いてるけど…あの人、ロキはね、普段から女好きなんだって。」
「それは……」
「ただ、お客様には絶対手つけないらしいけど。」

レビィは溜息をついてルーシィを見つめた。だがルーシィの瞳は覚悟を決めているようにしか見えない。きっともう自分が何と言おうと駄目だ、とレビィは感じた。ルーシィは一度こうだと決めたことを曲げない。

「大丈夫だよレビィちゃん。あたし、頑張ってみたいの。やれるだけのことしたい。だから…」
「……わかった。ルーちゃんがそこまで言うなら…。」
「ありがとレビィちゃん!」

ルーシィはレビィに抱きつき、行ってくる、とホストクラブへと入って行った。レビィは心配そうにルーシィの背中を見送り、頑張って、と一言呟き駅に向かう。



―そう。私の好きな人は、不運なことに―

「いらっしゃいませ!」
「―あの、ロキはいますか。ロキをお願いします。」

ルーシィがニコリと微笑み指名すると、席に案内され程なくして長身で細身の、山吹色と橙色が混じったような色の髪をした、端整な顔立ちの男性が現れた。誰もが見惚れそうな容姿―ロキといい、詳しいことはわからないがどうやらこの店のNo.1らしい。

「やあルーシィ、今日も指名ありがとう。」

爽やかに笑みを浮かべるその男性はルーシィの手を取り、甲にキスを落とした。僅かに頬を染めたルーシィはすぐに手を引っ込め、落ち着け、と深呼吸し瞳を閉じた。

「―ロキ。」

―私の好きな人はホストなのだ。―



「何か嫌なことあったの?」
「え?」

お酒を覚え立てのルーシィは、ロキが作ってくれたアルコールの薄い苺のカクテルを一口飲みロキを見つめる。どうして?と尋ねると浮かない顔をしているから、と返された。

「今日はロキに話があって来たの。」
「話?」
「うん。」

グラスを置き、ルーシィはニコリと笑う。ロキには今日の彼女がいつもと違って見えて仕方なかった。いつものような無邪気さが今日は見えない。そんな彼の戸惑いが伝わったのか、ルーシィは静かに話を始めた。

「―今日でここに来るの、終わりにするね。」
「え?」

ちょっと待って―ロキがそう言おうと口を開いた時、ルーシィがメモをロキに差し出した。

「ロキはモテるだろうから、こんなの日常茶飯事かもしれないけど―あたしにとっては初めてで…」

ルーシィが差し出してきたメモを開くと、そこには電話番号とメールアドレスが書いてある。もしかしてこれは―ロキが顔を上げるとルーシィがはにかんだように笑っていた。

「お客様としてじゃなくて、普通にロキと接したいの。連絡、待ってるね。」

そう言ってルーシィは席を立った。ロキは暫くポカンとしていたがハッと我に返り、ルーシィを追いかける。店を出たところで金髪の少女を捕まえ、ロキは彼女の腕を掴んだ。びっくりしたような表情で振り返るルーシィはロキを見つめて沈黙した。

「ルーシィ、これは受け取れないよ、駄目だ。」
「どうして―?」
「駄目なんだ、ルーシィだけは…」

いつもへらへらしているロキが見せる真剣な表情。ルーシィはそこまで頑なに拒否されることに苦笑いした。

「…他の子と違って私、魅力的じゃないものね。」
「違う、そうじゃ…そうじゃないよルーシィ。」
「じゃあどうして―」

ルーシィはロキに詰め寄るが彼が悲しそうな瞳をしていることに気が付き口をつぐんだ。そのままロキからメモを受け取り、何も言わずに走り去る。ロキは拳を握ってルーシィが走っていった方をいつまでも見つめていたが、足は本当はルーシィを追いかけたがっていた。

「―これでいいんだ。これで―…」

ポツリと、誰にも届かないような声を賑わう街に残して仕事に戻って行った。

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