今日こそは、あいつに会ってちゃんと話をしたい―。


「ミラ、ルーシィ見なかったか?」
「ルーシィなら、さっき仕事に行くって、レビィとジュビアと一緒に出て行ったわよ?」
「………仕事?」

ガチャガチャと食器を棚にしまっているミラジェーンに相棒の所在を聞けば、ほわんとした笑顔でナツにとって納得の行かない返事がかえってきた。ここ2週間ルーシィと話をしていない。話し掛けようにもまずルーシィがギルドにいないし、家に押し掛けてももぬけの殻だ。今までは家賃が払えないだのなんだのの理由で仕事をしにいきたいと、ルーシィからナツに誘いが入ることの方が多かったのに。

「振られたねナツ!あい!」
「振られてねーよ!!」
「あら、ナツってばルーシィに告白したの?」
「いや別に…」

告白―あれを告白と言っていいのだろうか。好きだと告げたわけじゃないし、ルーシィの答えを聞いたわけでもない。ただ、ルーシィが10人付き合ってきたことがあると聞いたらなんだか腹が立って、焦って…だから自分も10人の女と付き合って、男を研こうと思ったのだ。だが、2週間、ロキに協力してもらい努力をしてみたものの全く意味がないことがわかってしまった。

「やっぱ俺は好きじゃないヤツとは付き合えねーよ。」

くてん、と、カウンターに首をもたげて大きな溜息をつくナツを見てミラジェーンはくすくすと笑う。

「慣れないことはするものじゃないわね。」
「……でもルーシィは10人って…」
「ねえナツ、相手の過去なんか関係ないって私思うわ。私だって、仲間を傷つけたフリードと恋人になっているわけだし、グレイだってリオンとまた話せるようになった。ガジルやジュビアだって、前は敵だったのに今はかけがえのない仲間だわ。それと一緒だと思わない?」

優しく話をするミラジェーンの言葉をナツはじっと黙って聞いていた。隣では、さすがミラ!!とハッピーがくるくる飛び回っている。もちろん実際は、〔好き〕という恋愛感情が入ってきてしまっていることからすんなり過去を受け入れるのはなかなか難しいことではあるが、ミラジェーンが言っていることと変わらないのだ。過去は過去として気にしなければいい。

「でもよー。」
「ナーツ?それよりも、まず先にルーシィに避けられてるんだから何が原因か、どうしたらまた話せるようになるか考えてみたら?」

えいっと額を指ではじかれればナツはきゅっと目を瞑る。確かに、ルーシィが避けているのは明らかだしまずはその問題をどうにかしたほうが賢明だろう。

「…あーもー、わかんねえ!」

ぐしゃぐしゃと頭をかき乱すナツをミラジェーンは相変わらずほわんとした笑顔で見つめていた。




「それでねルーちゃん、おかしいんだよジュビアったら。」
「レ、レビィ、恋敵にそんな話したらダメですよ。」
「なーんでよ、可愛いじゃない。」
「だ、ダメ!」
「………ルーちゃーん?」

依頼者の元へ行く途中、女3人できゃっきゃと話をしながら歩いていたが、レビィとジュビアが盛り上がる中、ルーシィはぼーっとしたまま話を聞いて居なかった。不思議に思ったレビィはルーシィの眼前で手をふり、大丈夫?と声をかける。

「あ、ごめん…ぼーっとしちゃってた。」
「もー、最近なーんか変なんだよねルーちゃんは。どうしちゃったのかな?何も理由言わずにジュビアのとこに2週間泊まり込んでるみたいだし?」
「…あ、いや、それは」
「いいんですよレビィ。恋敵を近くに置けば弱点が見えてきますから。」

しどろもどろするルーシィにレビィがにやにやしながら尋ねるとやっぱりしどろもどろした返事がかえってきた。ジュビアはまた別の目的でルーシィを居候させているようだが…。

「あたしの読みでは〜、んん、最近ナツのことを避けているのではないかね?ルーシィちゃん♪」
「………!」

ば、ばれている―

ああ、やっぱりレビィは勘がするどいなあこの分だときっとミラジェーンも気付いてるんだろうなあ、とルーシィはああやだどうしようなどとうろたえた。

「確かに最近話していないし仕事もジュビアやグレイ様とばかりですね。ルーシィ、どうしてナツさんを避けるのですか?同じギルドの仲間なのに。」
「いや、それは―」
「んもお、ジュビアは鈍いんだから。避けなきゃいけない〔何か〕があったのよ、ねールーちゃん?」

ニコニコと笑顔でそう切り返してくるやり手な少女に、ルーシィはお手上げだ負けましたといいたそうに苦笑いを浮かべる。レビィにはやっぱり隠し事は出来ない。確かに、あの日から、あの一件からナツを避けている。仕事もジュビアと行き(たまにグレイやガジルも居るが)、ギルドには極力顔を出さないようにし、さらには家にも帰っていない。(ナツが不法侵入してきたら嫌でも会ってしまうから)ここまですれば周りはもちろん本人にも、距離をとっているのがわかるだろう。

「…どうしたらいいか、わかんなくて。」
「ナツに?」
「うん…」
「何があったのですかルーシィ。悩んでいるなら相談にのります。ルーシィは恋敵ですけど、ジュビアはルーシィが好きだから。」

全部わかっているようで半分からかいながら聞いてくるレビィと真剣に心配をしてくれるジュビアに、ルーシィは嬉しくなり口を開いた。

「…ナツに告白されたの。好きだって、はっきり言われたわけじゃないけど。」
「そっか、やーっと言ったんだナツ!」
「それはおめでたい話ですね。」」
「へ?」

もっと驚くかと思っていた二人の反応はルーシィの予想していない反応だった。うんうん、と頷きながらナツもついに男を見せたのね、などと呟くレビィにもっとはやくに言ってもよかったんですよナツさんは、などと返すジュビア。なんで、まさか、二人は―。

「二人は、ナツがあたしのこと好きなの…もしかして知ってたの?」

ルーシィがおそるおそる尋ねると、レビィとジュビアはきょとんと顔を見合せて「ルーちゃん以外皆知ってるよ。」と応えた。

「う、えええ?!!!」
「気付いてなかったのはルーシィくらいですよ。」
「周りはナツがルーちゃんを好きだっていうのは見てればわかったよ。ナツわかりやすいしね。ルーちゃんは鈍いみたいだから全然気にしてなかったよねきっと。」

ねー、と再び二人で相槌をうちにやにやしながらルーシィを見てくるので、その視線に耐え切れずにルーシィは顔を真っ赤にして硬直した。

そんな、普通に返さないでよ―

日頃から、誰が誰を好きなどと言った恋愛系の話は苦手だしどちらかと言えば確かに鈍い方ではある。鈍い方ではあるが、いつも一緒にいたナツの気持ちにちっとも気が付かなかった自分はまだまだ恋のレベルは初心者だなと、ルーシィは落胆し頭をますます悩ませるのだった。







【distant】→よそよそしい



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