「いて………」

どれぐらい落ちたんだ?頭を打ったのかすげえ痛みに目が覚めた。上を見上げれば真っ暗で、自分がどこから落ちてきたのかも全然わからなかった。ふと、少し離れたところに目をやると、金色の髪がはらりと広がって誰かが横たわっているのが見えた。

「ルーシィ?!」

慌てて駆け寄ると、やっぱりルーシィだった。気を失ってるだけみたいで、俺は胸を撫で下ろす。

ルーシィまで一緒に落ちたのか?

「おい!ルーシィ!!」
「ん…」
「大丈夫か…?」
「…グレイ。」

うっすらと目を開けて、ルーシィはあたりを見回した。周りはクリスタルなんだろうか。上のように綺麗な色じゃなくて、真っ黒に光っている。

「…ここ、もしかしたら、リリスの巣なのかも。」

立ち上がってルーシィが言う。

「巣?」

「さっき、ロキがクリスタルの説明をしてくれたときにね、邪悪なモノの傍にあるクリスタルは黒いって教えてくれたの。だから、そこがリリスの…悪魔の巣だって。」
「黒く…」
「!きゃ…」

二人で黒く輝くクリスタルを見ながら話をしていると、ルーシィから小さな声が聞こえ、それと同時に彼女が何かに引き寄せられて視界から姿を消した。振り向くと、首を蔓のようなもので巻かれているルーシィ。その横には…

「ふふ、お目覚めかしら?」
「ルーシィ!!!!!」

すげー綺麗な……………

「…………妖怪?」

ルーシィの横には綺麗なんだが下半身は蛇みたいな女が。

「妖怪…そうね、そう呼ぶ者も中には居るわ。だけど私は悪魔というに相応しいわ。妖怪なんて下等なモノと一緒にして欲しくは無い。」
「いや、俺からしてみたら同じだろ。」

もしかして、こいつが探してたリリス?なんか想像してたのと違う。悪魔っつーからもっとこう…ほんとにこう…グロテスクなのかと…。いや、下半身が蛇だから、グロテスクっちゃそうなんだが…

「おい、ルーシィを離せ。」
「いやよ、あなた人間でしょ?人間の男なんか嫌いだもの。特にあなたみたいな美形…大嫌い。でも、女の子は大好きなの。」
「…じゃあ不細工だったら良かったのか。」
「あはははは!!グレイうまい!!」
「…緊張感の無い奴らね。まあいいわ。ここに落ちたからには生きては還れない。」「ぐあ…!!!」
「グレイ!!!」

黒い光の筋が腕を掠めてくる。攻撃を仕掛けられたことと、ルーシィが囚われていることに俺はギロッとリリスを睨み付けた。

「おい…てめぇ、俺がキレない内にさっさとルーシィを離せ。殺すぞ。」
「…不思議ね。あなたは悪魔が怖くないの?」
「わりぃが、悪魔ごときにびびってるよーじゃ仕事はできないんでな。」

悪魔にびびってたらデリオラなんか目もあてれねぇ。俺が出会った中であいつほど寿命が縮まるほど恐ろしいモンはいない。

まぁ…エルザはまた違った意味で怖いけど。

「そもそも、俺はお前を退治しに来たんだ。依頼を受けてな。」
「私を退治に?何寝ぼけたこと言ってるのよ。退治されるのはあなたたち人間よ。自分の欲望の為なら何だって、誰だって犠牲にできる…汚い生き物じゃない。」

一瞬すごく悲しそうな目をした気がした。悪魔のくせに。

「そんなに彼女が大事なら彼女の手で地獄に落としてあげるわ。」

「や…っ!!!」

リリスがルーシィの肩に噛み付くと、ルーシィの体がぴくっと震えてそのまま倒れこむ。

「てめー!!何しやがった!!」
「ふふ…。面白い余興の始まりよ。」

リリスが妖艶な笑みを浮かべてそう言い放つと、ルーシィがゆらりと起き上がる。その瞳には、何も映していないような…リリスと同じ、紫に瞳の色が変化していた。

「ルーシィ?」
「…。」
「あなた達男なんか皆殺されるといいわ。」

リリスがそう言った瞬間、ルーシィの鞭が俺の顔を叩きつけてきた。何が起きたかわからない。今のはルーシィが?

「ってぇ…!!」
「……。」
「おい…!!!」

その衝撃に思わずよたっとなっちまったが、ルーシィはすかさず攻撃を加えてくる。

「くそ!!ざけんなよ!!ルーシィにこんなことさせやがって…」
「くすくす…仲間相手じゃ手も出せないでしょ?」
「…なめんなよ!!アイスメイク・牢獄!!」

戦闘能力は俺のほうが断然高い。かと言って、俺にルーシィを攻撃することなんかできないから氷の牢獄で彼女を閉じ込めた。

「!!!」
「あ、あれ…何この檻。」
「ルーシィ!!」
「…ち…私から離れたから魔法が切れたか。」

檻の魔法を解いて俺はルーシィに駆け寄った。

「グ、グレイ…あたし…」
「話は後だ。それよりもこいつを…アイスメイク・突撃槍…!!」

飛んでいった氷の槍は、リリスの前でぴたりと止まる。

「なにっ……!!」
「私に属性のある攻撃は効かないわよ。闇のクリスタルに守られているの。残念だったわね。」
「…ちっ…」
「…【彼女の家は死へ落ち込んで行きその道は死霊の国へ向かっている。彼女のもとに行く者はだれも戻って来ない。命の道に帰りつくことはできない。】」
「…?」

リリスが目を閉じて呪文のように言葉を繋げる。俺達は何の話なのか見えなくて、眉間に皺を寄せた。

「半世紀前、悪魔になったときから、街人達の間で言い伝えられている噂よ。つまり、私の元に迷い込んだ人間で、誰一人として命を紡いで還った者は居ない。」

ゆっくりと目を開けるリリスの瞳に俺は魅了されていく。ちょっと待て…

半世紀前に悪魔になったってことは…

「お前も、昔は人間だったんだな?」

俺がそういえば、リリスはぴくりと眉を動かした。

「そうよ…あなたの言うように、私も昔は人間だった。だけど人間の愚かさに嫌気が差し、魂を悪魔に売ったのよ。…全ての男を闇に葬るためにね。」

思わず背筋がぞっとするようなおぞましい程の憎しみ。俺は不覚にも、額に嫌な汗を伝わせた。

「…貴女は、どうして人間の男と一緒に居られるの?」
「え?あ、あたし?」

突如、リリスに視線を向けられあたふたするルーシィ。なんでそんなにさっきから男って言葉が出てくるんだ?

「あたしは…」
「人間の男は皆汚く愚かな生き物よ。自分達の欲のためなら女は全てモノとして扱う…そんな奴らとどうして一緒に居るの?」
「…あたしは…男と女とか、そんなの関係ないわ。だってグレイは…皆は仲間だから。」
「ルーシィ…。」
「…仲間…くだらない理由ね。」
「…あんたこそ!なんでそんなに男を嫌うのよ!!」
「…私が人間だった時、父に政治の為に権力者の元へ無理矢理嫁がされたわ。恋人が居るのを全て知っていて。そして、その嫁ぎ先の男に、最愛の恋人を殺された。」

リリスの言葉に息を呑む俺とルーシィ。半世紀以上前の世界では、そういうこともあったと、俺はウルに聞かされたことがあったから目の前に居るこの悪魔がまさにその被害者の一人だという事実に驚いたんだ。

「…それを知ったときに私はその男に詰め寄ったわ。愛していないやつのところに嫁ぐのは身を引き裂かれる想いだったけれど、どこかで私が愛した彼も元気にしていてくれるのなら…そう思ってた。だけど、あの男は…!!!!!」




『どうして彼を殺したの?!!』
『…ああ、リリス。君の心にはまだあの男が住んでいるからね。だから殺してやったんだよ。』
『何を…!!』
『可笑しかったなあ、あの男…何度も何度も君の名を呼ぶんだ。’リリス’って…汚い口で、僕の妻の名をね…!!』
『きゃあ!!!』



ああ、ジャックス…あなたはどんな想いで逝ってしまったの?



『やめて!!離して!!』
『うるさい!!君は僕の妻だ!!あの男のことはもう忘れろ!!』
『いやあああ!!!!!』



どんな気持ちで私の名を呼んでいたの?

一人で苦しかったでしょう

寂しかったでしょう

この男が憎かったでしょう…

すぐに私もそっちへ逝くわ。






「……その日は、その男だけではなく、その男の父親にも無理矢理抱かれたわ。…調教の為に。」

ルーシィの体が震えているのがわかる。確かにな。話が事実なんだったら、それほど残酷なことは無い。俺だってぞっとする。人間を憎んで…男を憎んでもしかたねーかもしれない。

「その夜、私は自殺をした…だけど、自殺をした人間は殺された人の元に行くことはできなかった。そうしてこっちの世界に留まっている間にどんどんどんどん憎しみと寂しさの塊になって…ついには悪魔に魂を売ったの。憎い人間に…男に、復讐をしようと思って…。」
「…。」
「…許せなかったのよ。娘を簡単に政治の道具にした父親も…心から愛していた彼を殺し、私を調教の為に抱いたあの男とその父親も…全部…。」
「リリス…」
「だから、迷い込んだヤツらは全て命を吸い尽くしてあげたの。」
「……違う。」

ぽつりとルーシィが言う。










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