妖精の尻尾内に一人、焦燥感に駆られている男がいた。

「あーーくそ!!もやもやすんな…!!」

グレイは頭をわしわしとかき、チラリとある一点に視線をおくる。そこには獅子の皇子から離れない彼女の姿があった。契約してから1ヶ月ぐらいが経つけど、あの日からやたらと親密になったようにグレイには映る。最近では、毎日のように一緒にいて、二人に入っていけるような空気じゃないのも気のせいなんかじゃない。意を決して想いを寄せる彼女の元へ近づいていき、後ろにきたところで恐々と名を呼んでみた。

「ルーシィ。」

金色の髪がさらりと揺れ、大きな瞳を瞬きさせながら振り向いた彼女―ルーシィ・ハートフィリア。グレイが密かに想いを寄せるその人は華が咲いたような笑顔を見せた。

「グレイ、どうしたの?」
「あ、いや、つかお前じゃねーし。」
「僕じゃないのは知ってるよ。ルーシィに用なんでしょ?何?」
「いや、だからお前じゃなくて…」
「僕の可愛い可愛いルーシィのことをいじめるグレイには簡単に近づけさせたくないんだけど。」
「おいっ!」
「もー!ロキ!!あたし別にグレイにいじめられたりしてないわよ!威嚇しないの!」

俺とロキが今にも喧嘩になりそうになった時にようやくルーシィが声を上げ、二人の間に割って入る。それまで腹黒い笑みを浮かべていたロキはコロリと態度を変えて爽やかにルーシィに向けて微笑んだ。

「威嚇してないよ、じゃれてるだけ。」
「じゃれてんのかよ!」
「どっちでもいいっつーの!それよりも、グレイ。あたしに何か用事あったんじゃなくて?」
「いや、仕事…一緒にいかねぇか?ナツへたってんだろ?一人じゃなかなかできねーんじゃねぇかと思って。」
「え?グレイ一緒に行ってくれるの?」
「あ、ああ。」
「やったぁ!正直困ってたのよね。一人で行ってもロキが居るからいいんだけど…でもロキだけに無理させるわけにも行かないじゃない?だからグレイも一緒に来てくれたら嬉しい。」

これで今月も暮らしていけるわ、と嬉しそうにするルーシィを見てグレイは言ってみるもんだと安堵した。

(でも、取り方によってはロキにばっかり無理させるのはロキが心配だって風にも…いやいや、純粋に生活費のこと考えてるだけだって。考えすぎだ俺。)

悪い考えをしないよう頭の中から取り払うが、自分がこんなに臆病で弱気だったとは、とグレイは内心自嘲気味に笑った。ウキウキと支度を始めていたルーシィの単純さすら可愛いと思うのだから恋というのは不思議だ。

「じゃーさっそく行こうぜ。仕事選んで来いよ。」
「オッケー!」

笑顔で依頼チラシが貼ってあるボードのところに行く彼女を見ていたが、隣から刺さるような冷たい視線を感じ、顔を僅かにその方向に向けると切れ長な瞳が目をうっすら細められていた。

「……なんだよ。」
「……べつに?」
「………。」
「ねえねえこれにしようよー!!報酬50万!!」
「ああ、いいんじゃねぇ?」
「うん、僕もいいと思う。」
「ジュビアも賛成です。」
「軽すぎねえか?」

その場に居なかったはずの声が飛び込んできたことにグレイとルーシィ、ロキは三人視線を合わせる。振り返ると、つい先日に入ったばかりのジュビアとガジルが立ってた。

「グレイ様〜、ジュビアも一緒に行きます!恋敵と二人きりで仕事になんか行かせません!」
「オレは別にどうでもいーけどジュビアがついてこいって言うからな。しかたねぇからついてってやるよ。」
「あー、おまえ等な。」
「いいんじゃない?大勢居たほうが仕事も軽くなるし。」
「ええ?分け前が減るじゃない…ま、いいけど…」
「ルーシィは恋敵。」
「ま、まだ言ってるのジュビア…。」

グレイはがくりとうなだれたが、ロキにガジルとジュビアの相手をさせてもいいなと考え、承諾する。ロキは自分よりもずっと、男女問わず人付き合いがうまい。年齢のせいなのか彼の過去がそうさせたのかはわからないが、ガジルもロキとは恙無く話をしているし、ジュビアも普通にロキとよく一緒にいるところを見かける。邪魔者排除の計画を企て、身支度をして団体で仕事へ向かった。





「グレイ様!見てください!すごい綺麗です!!」
「ルーシィ、足元気をつけてよ?ほら、危ないから僕に掴まって。」
「……………(そううまくは行かねえもんだ)。」

ルーシィが受けた依頼はリリスという悪魔の退治だった。山の中にある洞窟に住んでいるらしいがその山に迷い込んだ人間は皆帰ってこないという説が上がっていて、それが悪魔の仕業なのではないかということから、住処を見つけて退治してほしいとゆうことだ。この御時世、悪魔なんてものがいるとは考えにくいがただの遭難じゃねえのかと言えばルーシィに思い切り睨まれたので、口は災いの元悪魔のせいだと、渋々町長から長い長い話を聞き出した。洞窟内は周りがすごくキラキラ光っていてとても悪魔が住み着くような場所には思えない。

「しっかし、なんだ?この……キラキラしてんのは。悪魔の住む場所にしては明るくねえ?」
「確かにな。」
「これ、多分水晶だよ。」
「水晶?クリスタルか?」
「ああ。クリスタルの…本当に小さい破片がたくさん散ってるんだ。だからこんなに光ってるんだろうね。」

壁に手をつきながらじっと、光る破片達を見つめロキが言う。ルーシィは、へぇーと感心してロキの隣に並んだ。

「ロキって色んなこと知ってるのね。」
「星霊界にはこういう場所がたくさんあるんだ。洞窟だけじゃなくて、湖とかもこういう風にクリスタルが散らばってる場所があるよ。すごく綺麗なんだ。」

興味深そうにロキの話を聞いているルーシィから、グレイは自然と目を反らした。あの二人が特別な絆を持っていることはわかっている。

わかっていても、やっぱり…

「ルーシィとロキさんって、お似合いですね。二人とも色素薄いし美形ですし。」
「…はやく先行こうぜ。」
「グレイ!!ちょっと待ってよ!あんまり一人で先に行くと危ないわよ!!」

ルーシィの制止も聞かず、グレイは単独で奥の方へと歩いていく。

ロキがあの時、消えてたら…って、俺なんつーこと考えてんだ!!!!ロキは星霊だけど家族みてーなもんじゃねえか。なのに俺……

「うわあ!!!!!」
「!!!グレイ!!!」

踏み抜いたところがたまたま落とし穴だったらしく、深い穴に落ちたグレイの耳には遠くでルーシィの声が響いていた。









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