今日もあの子はキッチンに来る。ここ1ヶ月、毎日のように決まった時間に顔を出すようになったから。
最初は週に1回くらいから始まって、2回、3回、とどんどん増えてきた。気がつけば毎日夜はあの子と過ごす時間があって、さあ今日は何を話そうか、そんなことを考えていると、案の定廊下をパタパタと走る音が聞こえてきた。

「サンジくん、ココア飲みたいんだけど…!」

お決まりの台詞。彼女は必ずココアを欲しがる。前に、毎日飲むほど好きなのかい、と聞いたことがあったっけ。サンジ君のココアは死んだお母さんが作ってくれた味に似てるから、と、寂しげに話してくれた。
かしこまりましたプリンセス、と振り向けば、少しだけ頬を赤く染めてありがとう、と笑う君。どうぞお座りください、と椅子を引いてエスコートすればいつも、ごめんね、と苦笑いで腰掛けるんだ。

猫舌な彼女には事前に作って少し冷ましたココアの上に、少し炙ったマシュマロを2つ。これが大好物。

「****ちゃん、今日はどうしたんだい。なにかあった?」
「え、う、うん……なんか眠れなくて!」

ココアをテーブルに置いて、お決まりのようにそう問いかけると、慌ててこたえる****ちゃん。昨日は読みたい本があるから、一昨日は星が綺麗だから。毎日毎日、違う理由でキッチンに来るそんな彼女がどうしようもないくらいに愛しくて、俺は喉を鳴らして笑みを浮かべた。

「そうか、じゃあココアとは別に、****ちゃんには特別に不眠症に効く物をあげるよ。」
「え、い、いいの?ありが」

****ちゃんの言葉を遮って彼女のふっくらした唇に自分のそれを重ねれば、きょとん、とした顔をしたあとに一気に真っ赤になって俺を見つめてくる。え、サンジ君、な、え、とあたふたしてる様子はやっぱり可愛い。…そんな顔されたら、ほんとにこのまま食っちまいたくなる俺の気持ちなんか、彼女はこれっぽっちも知らなくて。毎晩俺に逢いに来るために必死で理由を探してる君があまりにも可愛くて、もっともっと、夢中になればいい、なんて君の想いを知ってて知らないフリをしていた俺のちっぽけなプライドすらも、気付いていない彼女。

「プリンセス、とっておきの眠り薬はいかがでしょうか?」

ニッと笑えば、****ちゃんは今まで見たことがないくらいに赤くなって俯いた。これだから、君を好きなのをやめられねえ。知れば知るほどどんどん君にはまっていく。

なあ、****ちゃん、

赤ずきんちゃんの話知ってる?<


(サンジ君、赤ずきんちゃんは最後は狼は殺されちゃうんだよ?)
(…そうだっけ?)



偽不眠症に効く薬


prev - next

back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -