キミをマシュマロで一包み



女子寮の一室でそれは行われていた。

毎年10月31日に行われているハロウィンパーティー。仮装をしてお菓子を交換しあうそのイベントだが、クリスマスも近いためにカップルが成立しやすいとも言われている。片思い中の生徒達は想いを伝える絶好の機会―なまえもそんな恋する者の一人であるがあまり催し物に興味もなく、意中の人に告白などするつもりも毛頭なかった。だが、親友のリリーに半ば無理矢理つかまり強制的にドレスアップさせられている最中である。

「いや、あの、リリー様?わたしそういうのは…」
「だめよなまえ!こうゆうイベントも楽しまなくちゃ!」
「いや、でも…だって、こ、これ短すぎるんじゃ…」
「シリウスに可愛いって言われたいでしょ?」
「な、なんでシリウス?!」

ジェームズ達はもちろんリリーにすら、自分の好きな人の話をしたことはただの一度もないはず。好きな人はいないのかと言われては、いつもはぐらかしていた。まさか見抜かれていたとは思わず、なまえは視線を泳がせ顔を真っ赤にする。

「なまえ―…気づいてないのはあのバカ犬くらいよ。」
「う…てことはジェームズ達も?」
「もちろん。」
「…………。」

―恥ずかしい。穴があったらはいりたい。

「リリー、わたしやっぱり今日は部屋でおとなしくしてます。」
「だ、め、よ!今日はチャンスじゃない!絶好の!しかもより綺麗ななまえで想いを伝えるチャンスよ!クリスマスは恋人として一緒にいたいでしょう?!」

若干血走った目に必死の形相で叫び、楽しそうになまえの髪を結っていくリリーに抵抗するのも諦めて鏡にうつる自分を見てみる。確かに、いつもはしない化粧で格段に綺麗に変化しているしリリーが用意してくれた衣装もスカートはパンツが見えそうなくらい短いが、普段のなまえと正反対なキュートさがある。

「―…でも、あのシリウスが可愛いなんて言ってくれるのかしら。」
「言わなかったら死罪よ。」
「リリー、それ、洒落に聞こえないわよ…」

苦笑いを浮かべると髪が完成したらしく、最後に少し色の濃いグロスをひかれた。もう一度鏡を見れば、やはりいつもとは毛色の違う自分が映り、なまえは恥ずかしそうに頬を染める。

「や、やっぱりわたし似合わないよ…」
「なに言ってるのよなまえ!すっごく可愛いわ!!!!さ、はやくシリウスに見せに行きましょう!」

ウィンクをしてなまえの手をひくリリーは、悪魔の仮装をしている。こんな可愛い悪魔なら大歓迎だと女の自分でさえ思うのだから、ジェームズがリリーを見たらどんな反応をするかおおいに想像がついた。

女子寮を出て階段を降りていくと、談話室にはジェームズやリーマスの姿があり、なまえはジェームズの向こう隣にいる、吸血鬼の仮装をしているシリウスを見つけるとリリーの後ろにさっと隠れる。

「リリー、無理!」
「もうここまで来たんだから無理もくそもないわ。」
「だ、だって…ひゃあ!!」

背を押されて階段の最後を踏み出すと、談話室にいた寮生がみんななまえに注目した。口笛がなると同時にジェームズがなまえに抱きついてくる。

「なまえ!僕のリリーには負けるけどなんて可愛いんだ!」
「ジェームズいたひ…」
「ほんと、いつもの印象と全然違うよなまえ。とっても可愛い。」
「うん、そういう格好も似合ってるよ。」

リーマスとピーターも近寄ってきてなまえの変わり具合に感嘆する。その反応に、いつもそんなにだめなのかしらと疑念が残るも、ありがとうと言って、ただ一人反応のないシリウスを見た。

「おい相棒!なまえに何か言ってやりなよ!」
「…ねえよ。」

ジェームズが声をかけると、シリウスはむすっとした顔でなまえを見ずにそう答えた。ほらやっぱりね、となまえは内心ため息をついたが、リリーがシリウスの態度に食ってかかる。

「ちょっとシリウス!可愛いくらい言いなさいよ!」
「なんだようるせぇな、似合わないもん着てんのになんで可愛いなんて言うんだよ。」
「シリウス!」
「い、いいわよリリー。」

なおも突っかかろうとするリリーを止め、なまえは俯きながらスカートの裾をギュッと握りしめた。可愛いなんてストレートに言ってもらえると思わなかったが、ここまでけなされるとも思っていなかった。だんだん涙が滲んでくる。

「わたし先に行ってるわ。」
「なまえ…!」



涙を見せたくなくて、談話室を出てきたなまえは学校の外にある小さな泉の畔に行き着いた。好きな人の一言でこんなに一喜一憂するなら恋なんてしたくない。いや、むしろ自分でもなんでシリウスを好きになったのか不思議でならない。デリカシーもないし口も悪いし、あいつは実はジェームズとできてるんじゃないかと疑ってしまうくらいにジェームズとべったりだし。今日だってあんな言い方せずとも、似合ってるなくらいの嘘はつけなかったのだろうか。

「シリウスのばか。」
「誰がばかだよ。」

泉にぽつりと呟き吸い込まれたはずの言葉に反応がかえってきたので驚いて振り返ると、シリウスが立っていた。目を見開いて硬直しているなまえに、なんて顔してんだよと苦笑いしている。

「なによ、けなしにきたの!」
「いや、別に。」
「じゃあなによ、バカにしにきたの?どうせ似合ってないわよ悪かったわ「似合ってるよ!」

―は?

なまえは銀色の睫に縁取られた瞼をまばたかせ、シリウスをじっと見つめる。急に肩の力がぬけ、気の抜けた声が出てくるのが自分でもわかった。

「…さっき似合ってないって。」
「さっきのは…腹が立ったから、思わず。」
「………はい?」
「だから…おまえが悪いんだよ!そんな格好、手当たり次第に男誘惑する気なのかよ!」
「誘惑って…」

呆れた。

誰のためにリリーに強制的にドレスアップさせられたと思っているのか。

どこまでも鈍感なシリウスにさすがに呆れ、なまえは目を釣り上げてシリウスを睨む。

「あのね!言わせてもらいますけどこれは!」

しびれを切らして説明しようとしたとき―ふわり、とあたたかく何かに包まれ、なにが起きているのかよくわからないが香水の嫌な匂いなどではない、ホッとするような香りが鼻腔に届いた。なまえが状況を把握しようと必死にショートした脳内の回路を繋げていると、すこし上からすねたような声が降ってくる。

「そんな格好、俺以外の前でするんじゃねーよ。」

そう呟かれれば、より香りが強くなり、なまえはようやく自分がシリウスに抱き締められているのだと気がついた。


キミをマシュマロで一包み
(告白と受け止めていいかしら。)




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