いつもと変わらない毎日、変わらない時間。その日常は君に出会ったことで突然変わった。
Evening glow
『ロキー、今日も夜、いいでしょぉ?』 『もちろん♪今日はどんな風にいじめようかな…』 『やだぁ〜ロキってばエッチぃ〜!』
これが今までのロキの日常だった。女の子は確かに好きなロキだが、それもカレンを参考にしていたことであり、心まで欲しいと思った女性もいなかったしそんなものを求めたこともなかった。女性との交わりもただ人間界で上手にやっていく術のひとつでしかない―そう思っていたのだ。しかしそんなロキもある日突然、ナツが連れてきた一人の少女との出逢いにより大きく運命を左右されることとなる。
「わぁ〜可愛い!見てロキ!」
目の前にディスプレイされているマグカップを見てルーシィは楽しそうにロキに話しかけていた。二人が来ているのは街で一番人気の雑貨屋。ルーシィに街を一緒に歩きたいと誘われたロキは隣で嬉しそうにはしゃぐ彼女に思わず笑みが漏れる。普段妖精の尻尾に居れば17歳という年齢にしてはおとなびた仕草や言動が多いルーシィだが、こうして街を歩いているとやはり歳相応だなと思うような反応も見せている。ロキはそれが、自分だけが知っているルーシィの一面な気もして妙にくすぐったかった。
「ルーシィ、雑貨ばっかり見ててていいの?本見たいって言ってたのに。」 「いいのいいの、だってもう買うものは決まってるし。ロキと一緒に歩きたかったんだ。」 「………。」
大好きな人に無邪気にそんなことを言われては妙に照れくさい。頬を染めてにやけている自分を悟られたくなくてすすっとルーシィの前を歩いた。こうして二人で一緒に居ると端から見れば恋人同士のように見えるのだろうが、実際はそういう関係ではなかった。もちろんロキとしてはルーシィのことが好きだから付き合いたいとは思っているのだが、なかなか告白をする勇気が出ないままルーシィと契約をしてはや一ヶ月が経とうとしている。
「すみませーん、これください。」
本を4冊手にし、レジで店員を呼ぶルーシィを見つめながらロキは今までの女性とルーシィの何が違うのかを考えていた。今までに自分が関わってきた女性達は確かにみんな可愛かった。何が違うのだろうか。容姿や、中身をとってみても何が違うのか―関わって来た女性に魅力的な人はたくさんいたし、本気で自分を想ってくれている女性も居たのに…考えても考えても浮かんでこない。ルーシィだから、としかいえなかった。そんなことを考えていると彼女が笑顔で歩いてきたので、へにょりと笑ってロキは顔を上げる。かえろっか、と言うルーシィに頷き、スマートに彼女を誘導すると相変わらず紳士的ね、と困ったように眉を下げられる。「ルーシィ限定にね。」とにこにこ笑うとはいはい、と流されるのはいつものこと。ああ、もう星霊界に帰されるんだろう、もっと一緒に居たいな。黙ってしまったロキに、ルーシィはどうしたのと首をかしげた。
「ルーシィは好きな人はいるの?」 「へ?!」
いきなり振られたその問掛けにルーシィは顔を真っ赤にした。視線をあちらこちらに泳がせながら答えに困ったようにロキに切り返す。
「えと、……そ、そういうロキは、いるの?」 「…いるよ。」 「……そうなんだ。」
ルーシィは声のトーンを落として頷く。自分で聞き返したとはいえあまり聞きたくなかった、というのが本音だった。あからさまにショックを受けているルーシィの様子を見てロキは不思議に想いながらも話を続ける。
「僕の好きな人は、しっかりしてるようで結構抜けてて、気が強いかと思えばそうでもなくて…だけどすごく優しくて芯が強い人なんだ。」 「…。」 「それにすごく可愛いんだよ。」「………そう、なんだ…」 「その人は、僕の今の契約者。」 「……え?」 「…あの、さ。ルーシィは、僕のことどう思ってる?」
突然のロキの告白にルーシィは動揺を隠せず、頭がぐるぐると回り何も考えられない。
―まさか、そんなこと―
「……ロキは誰を好きなの?」
少し声を震わせて俯きながらもう一度問うと、「ルーシィ?」と優しく名前を呼ばれた。顔を上げると、今まで見たロキの笑顔の中で一番優しくて真摯な笑顔。
「僕はルーシィを愛してるよ。」 「……………それ、本当?」 「うん。」
言いようの無い嬉しさがルーシィの心にわきあがる。ずっと想って来た大好きな人。本の中での遠い存在だった。その大好きな人が自分を好きだと言ってくれている。ルーシィは何度も何度も自分の心の中でロキの言葉を反芻した。
「ルーシィは?」 「………好きよ。」
ルーシィは顔を真っ赤にし、聞こえるか聞こえないかの声でポツリと呟く。ロキは信じられないといった表情でルーシィを見た。
「本当?」 「……うん。ロキのこと、好きよ。大好き。」 「ルーシィ…!!!!」
嬉しさのあまりロキはがばっとルーシィに抱きつきぎゅっと抱き締める。「きゃっ…」と小さく声が漏れ、ロキは我にかえって「あ、ご、ごめん!!」と謝った。顔を真っ赤に染めて自分を見ている少女をもう一度、やんわり抱き締めれば少し身体を強ばらせるも、優しく背中に細い腕が回される。
「僕達、今から恋人同士ってことだよね?」 「……う、ん……」 「…そか。」
急に恥ずかしくなり、ロキは手で口元を押さえた。まさかルーシィも同じ気持ちで居てくれたなんて想わなかったから。全身が幸せで痺れてしまいそうな感覚。初めての感覚にロキも恥ずかしさと照れくささで顔を真っ赤にする。
「…これからは、彼氏としてもよろしくね?」
ロキの手を握りルーシィは照れくさそうにそういった。その手を握り返し、こくりと頷く。帰ろうか、とゆっくりと歩き出すが、告白後の恥ずかしさからか当たり障りのない会話しかできず、ロキは内心苦笑いを浮かべた。僕としたことが、と情けなく思いつつもいつの間にか妖精の尻尾の前まで帰ってきていたようで、ルーシィは名残惜しくロキを見あげる。
「……もう少し二人で居たかったかも。」 「…そんな可愛いこと言われたら、このまま君の家に連れて帰っちゃうよ。」 「だ、駄目よ。ナツ達に一回妖精の尻尾に帰ってくるように言われてるし…なんか、夜にしか出ない魔物退治の仕事に行くんだって。」 「それって僕も一緒に行くってことか。」 「うん、頼りにしてるわよ。」
笑いながらそう言いルーシィはドアに手を掛けるが、それはロキによって制された。自分の手に重ねられている手を見てから、隣にいる星霊の方へと顔を上げる。その瞬間、ふわりとやわらかい感触が唇を覆った。そっと触れるだけの優しいキス。一瞬のことだったが、確かに重ねられたその感触にルーシィは顔を真っ赤にし固まった。ロキはにっこりと意地悪そうに笑って彼女の耳元で囁く。
「続きは、また今度ね♪」
そう言って鼻歌を歌いながらはドアを開けご機嫌な様子でただいまーと中へ入っていくが、ルーシィはそんなロキにしてやられたようで顔を真っ赤にしたまま動けず、ナツ達に様子がおかしいと突っ込まれまくっていたそうな。もちろん、正気に戻ったルーシィがロキに叫ぶ声が木霊したのは言うまでもない…
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