僕はブラック家が嫌いだった。兄さんの居ない家はもっと嫌いだった。兄さんの代わりにしかならない、本当の僕をみようとしない両親も嫌いだった。だけど、それよりもそんな嫌いな家の上で生きていく自分が一番嫌いだった。


「レ、ギュ。」
「ん…。」

ひんやり、とした手が頬に触れて僕は目を覚ました。ぼんやりと辺りを見渡すと部屋ではなく談話室だった。そういえば本を読んでたんだっけ。いつの間にか眠っていたようで、本と栞が床に落ちていた。

「風邪ひくよ?」
「…なんでここに?」
「あ、えと、たまたま、下に降りてきたらレギュが見えてね、け、決して寝顔を見ようと部屋に忍び込んだらレギュがいなかったから探してたわけじゃないからね?!」
「………。」

まあ、つまり忍び込んだんだな。いつもなら、僕はここで「死にたいですか。」とか「そんなことばかりしてないで魔法薬学の勉強でもしたらどうです。」なんて言えただろう。だけど、今日は、なぜだか…。

「レギュ?どうしたの?具合い…ひゃっ。」

なまえの腕をひきよせてそのままソファーに押し倒す。馬乗りになって上から冷ややかになまえを見下ろせば不思議そうな顔で僕を見つめるなまえがいた。どうして、そんな顔を。

「なまえは…なぜ僕がいいんですか?」
「レギュラス?」
「…兄さんだっていたのに、いや、あなたにはあなたの人生があったのに、親に言われるがまま、僕と婚約をして、それであなたは幸せですか?」
「…レギュ、痛いよ。」
「答えてください…っ。」

ぎりっと力を込めればなまえの顔がゆがむ。そのまま唇を首筋に這わせれば、白い肌がぴくりと震えた。だめだ、止まれ、こんな風にして彼女を傷つけるのだけはよせ。そんな風に自分を制しても、止まってはくれない。

「…レギュラスは、レギュラスだよ。」

白い指が、僕の唇をなぞる。怖くないよ、と言われている気がした。力を緩めて体を起こせば、僕の下でにこにこと笑っているなまえがいる。

「レギュにはいいところがいっぱいある。シリウスや、ほかのみんなが持っていないところが、たくさん。私、親の言いなりでレギュと婚約したんじゃなくて、自分の意志でしたんだよ。前にも言ったじゃない。」

小さい頃から、決めてたんだから。

そう頬を膨らませるなまえに僕はなんだか脱力した。ああ、そうだ。僕はなまえのこうゆうところが好きだ。一瞬で、僕を心の闇から引き戻す、僕らしくしてくれる。こういうときなまえは、杖を使わない魔法を使うんだ。だけどきっとそれは、僕にしか効果のない―。さっきセブルス先輩が聞いていたラジオで、明日は晴れだと言っていた。

「…明日の休み、二人でどこかに行きましょうか。」
「―うん!」


花のように笑う彼女はたぶん魔法を使う

(お弁当作るね!)
(え…………。)