金木犀の香りが好きだ。家の庭に生えていた木が金木犀だった。この香りは、厳しくも甘いパパと優しくて聡明なママを思い出す。それから、私の大切な人も。だからふと、今日みたいな雨の日も金木犀は香るのか、確かめたくなった。


「ねえセブセブ先輩、とある人にとあることを言われたのだけれどどう思います。」
「セブセブはやめろ、先輩をつければ許されると思うな。」
「『あなたはシリウスとも幼なじみなのになぜ弟を選んだの?シリウスの方がいい男なのに、バカよね。』と。」
「(聞いてないな…)で?」
「いえね、突然この私を取り囲んだかと思えば揃いも揃ってレギュを蔑むものだから、もちろん返り討ちにしてやった…げふんげふん、でね、いい男の基準って、なにかなと思って。」

キラキラとしたオーラを放ちながら爽やかに笑みを浮かべて問いかけてくるなまえに、ああこんな日の彼女には関わりたくないとセブルスはなぜ自分がこの場所を通りがかってしまったのか、後悔をしていた。なまえを取り囲んだ女生徒達がどうなったかはあまり想像したくもないが、いい男の基準については適当に答えておくことにする。

「背が高くてお金があって、容姿端麗成績優秀スポーツ万能。」
「やだセブセブ先輩、それじゃあまるでシリウスのことだわ。」
「………一般的な意見だ。」
「ふ〜ん。」

もういいだろ、といそいそ校内へ戻っていくセブルスに手を振ってから、うーん、と腕を組んで考えてみた。

「いい男、ね。」

昔からレギュラスのことしか考えていないなまえはそんなものは改めて考えたことがなかった。お金があっても愛がなければだめだしシリウスみたいに容姿と家柄を鼻にかけ女にだらしない男もごめんだ。レギュラスは狡猾ではありながらも、優しく賢く、何よりも自分のことを大切に思ってくれる。それだけではだめなのだろうか。

「やっぱりレギュのほうがシリウスより100倍いい男なんだけど…あ。」

クディッチの練習から帰ってきたスリザリン生達がぞろぞろと庭の前を通過していく中、なまえはある一人の少年をすぐに見つけた。

「レギュー!」
「なまえ…?なにをして…」

タオルで髪を拭いていると庭から大きく手を振っている人物が目に入り、レギュラスはぎょっとした。こんなに雨が降っているのになぜ傘をささずに突っ立っているのか、突っ込むのも今は疲れる。

「なにしてるんです。」
「なにって、今日は雨でしょう?」
「ええ、そうですね、雨なのに傘もささずにこんなところに立っていて、風邪でもひいたらどうするんですか。」
「ほら、ここに金木犀の木があるの、知ってた?」

なまえが指さす木には橙の花が鮮やかに飾られていて、懐かしい記憶が蘇るようだった。

「…知りませんでした。何度も通っていたのに。」
「ふふ、だと思ったよ。」
「なまえの…家の庭に生えていましたね。よく二人で、金木犀の下で遊んだ。」
「レギュ、覚えてる?レギュがあの木の下であたしのお嫁さんになるって駄々こねたの。」
「……昔の話です///」

からからと笑うなまえに近づき顎をくいとあげれば絡まる視線。なまえの翡翠の瞳が少し見開かれ、わずかに頬が紅くなった。そんな彼女の反応に満足し、レギュラスはゆっくりと、唇を重ねる。雨の下、瞳を閉じたなまえの鼻腔に金木犀の香りがふわりと届いた。


金木犀は、雨にぬれてもやっぱり金木犀でした

(で、なんで雨なのにあんなところに立ってたんです?)
(雨が降ってても金木犀は香るのかなあって気になったから。)
(………。)