恋人には甘いものが付き物だと思う。甘い言葉、甘い会話、甘いささやき、甘い雰囲気、甘い香り、甘い…とにかく、甘い甘いそれが恋人たるものなのではないかと思う。けれど、世の中そううまくは運びが行かないもので、甘くない彼だっているのだ。

「ねー聞いてるかなあシリウス。」
「あーはいはい、で?」
「だからね、レギュラスは確かに優しいのよ?昨日もね、談話室で下僕―ルシウスいびりの途中で躓いてうっかりゴミ箱にはまっちゃった私を、呆れながら引きずり出してくれた優しさっていうの、あれは感動したわ!だって誰も助けてくれなかったんだもの、ベラとシシーだって呆れた顔で溜息をつくだけだったんだから。でもレギュは助けてくれたの、そうゆう、なんだかんだ優しいところがいいところなの。」

くいっと、ベッドに寝ころぶシリウスのシャツの裾を引っ張りながら、夢見心地なトーンで恋人である、シリウスからすると弟にあたるレギュラスのことを話すなまえはとても可愛い。可愛いのだが…。

「あー…あの、まず、突っ込みどころが満載で…どこから突っ込んだらいいか……つーか、惚気を言いにきたのかおまえの間抜け報告なのかグチを言いにきたのか、てゆーかゴミ箱にはまるってなんだよ!なんでそんなとろくさいんだ!つかルシウスいびりってなんだ!」
「やだシリウスったら☆そんなにいっぺんに質問されても答えられないわ。とゆうか、私は不満を言いにきたのよぉ。」
「不満?あいつのなにが不満だっていうんだよ。ルシウスいびって楽しんで蔑んで笑ってたくせにゴミ箱にはまった間抜けなおまえを引きずり出してくれた、我が弟はできた人間じゃねえか。」

聞いてよ、と部屋を出ていこうとするシリウスの腰にしがみつきずるずると引きずられながら談話室まで連れて行かれたなまえは、リリーを見つけて飛びついた。

「あら、来てたのなまえ。」
「うん、シリウスに用があって。」
「エバンズ、代わってくれ。つーかそのまま持ってってくれ。俺は夕飯食いに行く。」
「だめー!まだ話は終わってないんだからあ!」
「だー!離せ、わかった、わかったから!」

グリフィンドールでなまえがシリウスに駄々をこねる姿はもう馴染みなため、皆なにも言わずにシリウスに心の中でアーメンと呟きながら広間に向かって行く様が、シリウスからすればまた悩みの種だ。昔からなまえの不満関係は全部自分が貧乏くじをひいていることを考えれば、まあ今回も仕方がない、とシリウスは早く夕食にありつくためにもなまえの話を聞いてやることにした。

「で?なにが不満だっていうんだよ。」
「そ、それは…」

先程まではいらぬことをべらべら喋っていた幼なじみが、急に顔を赤らめてもじもじし出すのだから、なんとなく不満は想像がついてしまった。

「あ、甘さが足りないの、レギュは…」
「……はあ…。」

ああやはり、とがっくし肩を落としたシリウスになまえは、だって!と慌てて説明を始めた。

「周りの皆を見てたら、なんだかこう、恋人同士で愛を囁きあったり、ラブラブだってしてるのにっレギュは、す、好きとかも言ってくれない、し、手だって、つないで、くれない、し…だから…」

不安だった。
彼の背を追いかけていると、彼がどこか遠くへ行ってしまう恐怖に時折かられた。

「言葉だけでも、想いだけでもだめなの。」

両方揃わなくちゃ、意味がない。片方だけじゃあだめなのだ。

どうにも昔からどこか浮き世離れしているお嬢様は、レギュラスと甘い砂糖のような恋愛がしたいらしい。シリウスからすれば弟がそんな形の恋愛をするようにはこれから先も到底みえないが。

「レギュラスがチョコレートみたいに甘かったらいいのに…」
「あのなあ…身近にいる、チョコレート人間を知ってるけど、うっとおしいぞ?」
「…ジェームズ?」
「だいたい、レギュラスが毎日毎日べたべたするキャラか?昔から、ああいう性格だろうが。それでも好きになったんだろう?」
「………。」

シリウスの言うことはもっともだ。それはそうなのだけど…。

「じゃあ、シリウスは「やっぱりここに居ましたか。」

少年、けれど深く落ち着いた声がなまえの耳に響く。振り返るとレギュラスがいて、シリウスと目配せしていた。

「レギュ。」
「ほら、迎えにきてくれたぞ、行けよ。」
「でもまだ話が…」
「後は本人に言えよ、そーゆーのはな、本人に言うしか解決策はねえ。」

でていってしまったシリウスの背をぼんやり見つめていると、「なまえ。」と静かに名を呼ばれた。

「……。」
「広間に行きますよ、今日はなまえの大好きなかぼちゃのパイが出るらしいですから。」
「レギュ、あの。」

ぐい、と手をひかれてグリフィンドールの談話室を出れば、がやがやと、大広間に向かう生徒達のはしゃぎ声でいっぱいになった。繋がれたままの手をじっと見つめていると、レギュラスがくるりと振り返る。

「なまえは昔から何かあるとすぐに兄さんのところに行く癖がある。そのたびに、僕がどんな想いをしていたか、知らないでしょう。」
「……レギュ…」

レギュラスの瞳が悲しく、さみしそうに揺れた気がし、なまえはレギュラスに抱きついた。背中に回された彼の手の温かさに、目から熱いものがこみあげてくる。

「…一人でぐるぐる回ってないで、不満があるならちゃんと言ってください。僕だって、改善する努力はできますから。」

溜息をつきながら私をあやすレギュラスはやっぱり優しくて、「でもレギュラスはチョコレートにはなれないでしょう。」と問えば、「たまに甘いからいいんだと思いますけど。」と、とびきり甘いキスととびきり甘い言葉をくれた。


ああ、あなたがチョコレートだったらいいのに!
(愛してますよ、世界で一番に。)




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