「全く…何してるんですか、あなたは。」
「ぎゃあっ痛い痛いい…染みるよぉ!!」

医務室で少女の指を消毒している黒髪の少年は呆れながら溜息をついた。はたから見ればじゃれあっているようにしか見えないその光景をマダム・ポンフリーも微笑ましく見守っている。(あまりにも小さな怪我だったので自分でやりますと彼等が申し出た)

「はい。できました。」
「ありがとうレギュラス!うーん、男の子なのに器用だね。」
「なまえが不器用過ぎるんですよ。」
「お、言うじゃないのレギュラス君。年上をからかうもんじゃないよ。」
「いや同い年だし。」
「う…ってゆうか、この怪我はレギュのせいなんだから、ね。」

どうだっと言わんばかりに絆創膏が張られた人差し指を眼前に突き出してくるなまえを無視し、お騒がせしました、と椅子から立ち上がるレギュラスを待って待ってと呼び止めると、はい、と小さな箱を渡された。なんですこれ、と怪訝な顔をするレギュラスに苦笑いしながら、ケーキだよ。と応えるなまえ。

「ケーキ…?」
「うん、あ、あのね。実はこの間、レギュ、後輩の女の子にケーキもらってたでしょ、手作りの。どうやって調べたかわからないけどレギュがチーズケーキ好きなの知ってたし。」
「…見てたんですか。」
「あ、いやえっと!偶然通りかかっただけで、決してレギュの後をこっそりつけてたわけじゃげふんげふん、というわけで、つまり対抗してみました!」

慌てて成り行きを説明するなまえはあからさまに目が泳いでいる。要するにつけてたんだな、とじろりと黒い瞳で彼女を射ぬくと今度はごめんなさい悪気はなかったんです!と顔を青くして謝りだした。

「チーズケーキを作っててどこで包丁を使うのか教えて欲しいですね。」
「え?使うじゃん。」
「………これ本当に食べられますか。」
「食べれるよぉ、ちゃんと味見したし。」
「レギュラス、やめとけ…死ぬぞ…………」

不信気にケーキの箱を見つめているレギュラスに、失礼だなあと腰に手をあてて膨れるなまえの頭が、大きな手に掴まれれば後ろから蒼白い顔をした背の高い青年が顔を出した。

「兄さん、どうしたんですか。」
「…そのケーキは絶対に食うな。」
「もー、シリウスってば身体弱いんだから!」
「俺じゃねえ!お前のケーキのせいだろ!!!」

ケーキ食って30分後には上を下をの大騒ぎだったわ挙げ句の果てには泡噴いて倒れたんだぞ!!と牙を向いて抗議するシリウスに首をかしげているなまえを見て、レギュラスは自分が抱えているこのケーキの箱を今すぐに捨ててしまいたい気分になった。身体だけは頑丈な兄が医務室に運ばれたケーキなど、何があっても食べたくない。いや、それよりも今気に喰わないのはなまえが作ったケーキを自分より先に兄であるシリウスが食べていたことだ。なまえのことだからおそらく試食(こちら側からすれば毒味)のつもりで、幼なじみで兄貴分であるシリウスを選んだのだろうが、味や効果がどうであれ彼女が作ったものを他の誰かが先に食したという事実が今自分の心中を不快にさせている。

「なまえ、これ返します。」
「ええ?!ちょ、レギュ!!」

なまえに箱を押しつけて医務室を出ていくレギュラスを追い掛けると、ぴたりと歩いていた足が止まったのでホッとする。

「レギュ、あの、多分レギュラスは大丈夫だよ。」
「なまえは。」

漆黒の瞳が銀色の瞳をじっと見つめると、なまえは頬を染めてもじもじしながらレギュラスを見返した。いつもと様子の違う彼に少し戸惑っていると、いつの間にか綺麗な顔が目の前にありぎゃっと一歩飛び退くも腕をレギュラスに掴まれる。

「なまえは兄さんが好きなんですか。」
「え?」
「あなたは何かというと昔から兄さん兄さん、僕がどんな気持ちになるかもしらないで。」
「あの、レギュ?」
「ケーキだって、そりゃ兄さんをあんなふうにしたケーキなんか絶対試食したくないけど僕に試食を頼めばよかったのに兄さんに頼むし。」
「いや、だってレギュにあげるのに本人には頼めないよ。」
「それでもです。」

てゆうか、なんか失礼な発言が混じってるのは気のせいかな、と苦笑いすると、レギュラスははあと溜息をついた。

「別に僕は、なまえにケーキを作って欲しいなんて思ってないですよ。」
「…だって悔しかったんだもん。あたし、料理得意じゃないから、ケーキ簡単に作って渡せちゃうあのコが、なんかむかついたんだもん。」

ああ、なんだそうゆう理由かつまりなまえも自分と同じだったのか、と俯きながらぶーぶー文句をいうなまえの小さな顎をくいっとあげてレギュラスは触れるだけの口付けを交わすとにやりと笑う。

「僕が好きなのはあのコでもチーズケーキでもなく、なまえです。」
「……///!!」

仕方ないからもらってあげます、とツンデレ発言をしてなまえの手から箱をさっと持って歩きだすレギュラスの背中に、満面の笑みで抱きついたなまえを愛しいと思った黒髪の少年が、兄の隣のベッドに苦しそうに横たわり、心配そうにいや罰の悪そうに付き添う彼女に心の底から「死んでください」と口に出すのはこれから二時間後のことである。


甘いケーキでの腹痛


「ブラック兄弟はお腹弱いんだね。」
(今身体が自由がきくならすぐにでも殴りてえ。)
(…そんなんじゃ足りませんよ。)




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