「やべえ!」

ベッドから転げ落ちるようにして飛び起きた少年は、二度寝したことを後悔した。隣にはまだ、昨日声をかけられたハッフルパフということしか知らない女が眠っている。最初に目覚めた時に時計を見た時は既に7時を差していた。あと30分と思い夢の世界へ落ちたのが間違いだった。朝から授業があるというのに、時計の針は10時を差しているのだ。慌てて支度をしようとすると、寝ていた女が起き上がり寝呆けながらどうしたの?と呑気に声をかけてきた。

「授業があるんだよ。」
「でももう遅刻よ。」
「…。」
「いいじゃない、もう。ゆっくりしましょう。」

シリウスは心底げんなりした顔をして、ベッドに座っている女を見た。一回抱いただけで彼女面をする女は多い。今回は向こうから誘ってきたわけだし、後腐れなく終わると踏んでいたのに、と内心舌打ちをする。立ち上がり首に腕を絡めてくる彼女にはもう色気もなにも感じない。なぜこんな女を抱いてしまったのか、シリウスは面倒だなと溜息をついた。女の身体を離そうとしたとき、ノックもなしに扉が開いたのでもしかすると親友が起こしにきたのかと期待を込めて見ると、そこには女生徒が立っていた。

「ブラック、ポッターから伝言よ。『具合いが悪いことにしておいたから今日は1日ゆっくりしたまえ親友よ、ああ別に感謝することはないよ、代わりにリリーをデートに誘ってくれれば何も問題はない!じゃあ楽しんでくれたまえ!』…ですって。」

それだけ言い残して、長い銀の髪を揺らして去っていく女生徒は話したことはないがよく知っている。シリウスは自分に絡み付いている女生徒を離すと上着を羽織り部屋を出た。後ろから、なによあんたなんか最低、などと罵声が聞こえるがそんなものはどうでも良かった。寮を出たところで銀色の髪の少女の腕を掴めば振り返った彼女は翡翠の瞳でシリウスを見上げてくる。そのあまりにも美しい顔立ちにシリウスは息を呑んだ。なまえ・みょうじ―ホグワーツ内では有名なその少女はマグル生まれの魔女であり、容姿端麗品性方向、成績は常にトップ。知らぬわけがない、グリフィンドールの監督生だ。だが彼女はたまにリリーやリーマスと話しているのを見る以外基本的にいつも一人で行動しているし、シリウスは関わりを持ったことが一度もなかった。

「なあに?」
「…あ、いや、言いたいことはいろいろあるんだけどよ。まず、監督生さんが男子寮に勝手に入ってきていいわけ。」
「伝言を頼まれたから。不可抗力よ。」
「違反だろ。」
「女生徒を連れ込んでる人とは思えない台詞ね。」
「…。」

正論に返す言葉がなくシリウスは頭をかく。なまえはそんな彼に興味はないようで、教室に向かって歩きだした。彼女の後ろをついていくシリウスは「なんでジェームズがお前に伝言なんか頼むんだよ。」とまあまあ的を得た質問をする。なまえはくるりと振り向きジロッと黒髪の少年を睨み付けた。

「女ぐせが悪いって話本当だったのね。」
「あ?」
「どうして世の中、あなたみたいないい加減な男がもてはやされるのかしら。不思議だわ。」
「いやー、それは俺にもわからんな。」
「…まあ、あなたが何をしようと私には関係ないしどうでもいいけど寮に迷惑かけることだけはやめて欲しいわ。」
「―へえ、言ってくれんじゃねえか。」

感情の抑揚を感じない、美しいが小生意気ななまえの発言にかちんときたシリウスは彼女の細い腕をひき壁ぎわに追いやり顎を掴む。白く透き通る肌は欲情を掻き立てるほどの滑らかさが見るだけでわかり、これで男がいないのが不思議でしょうがなかった。

「俺知ってるんだぜ。」
「何を「お前がいつも俺を見てたこと。」
「―…。」
「そうだな、なまえが彼女だったらいいかも。」
「…は?」
「俺彼女欲しいし、な?付き合おうぜ。」
「……馬鹿じゃないの。」

冷たい瞳がシリウスを射ぬいた瞬間、足を思い切り踏みつけられ「いてっ」と小さく呻き声が漏れる。私教室に戻るからと、すたすた再び歩きだしたなまえを待てよ、と追いかけ回り込んで顔を覗きこむと耳まで真っ赤になった表情がそこにはあり、シリウスの黒い瞳が開かれる。お前、と口を開くとそれにかぶせるようにして、やっぱりブラックなんて大嫌い、と捨て台詞を吐いていくものだからシリウスは初めて胸が高鳴る名のつけようのない気持ちにかられたのだった。



第一印象は最悪だった



「え、俺ってそんなに最悪だった?」
「最悪も最悪よ。」
「でもそんな最悪な奴を好きになったんだろ?」
「………シレンシオ。」
「…!!」

談話室にてちょっと昔を懐かしむシリウスとなまえがなんだか喧嘩が始まりそうな様子にヒヤヒヤしながら、あああれはあれでじゃれあいなのかと思わざるを得ない様子に、ジェームズ達は苦笑いを浮かべていた。