Cheese!


「ねぇ、アスターどうしたの?」
「さぁ……?」
 店内の掃除をしながら、マリンが小声でティファに尋ねる。
 今日はヴィンセントと二人でエッジの街へ遊びに行ったのだが、帰ってきてからずっとアスターは店のすみのテーブルに突っ伏している。
 ひどく機嫌を損ねているというわけではないが、デンゼルとマリンが話かけても反応は薄い。いつも嬉々としてお土産を振る舞ったりしてくれるのだが。
 ヴィンセントはいつも通り淡々としているので、喧嘩をしたとかではないだろう。
 視線だけで説明を求めてきたティファに、ヴィンセントは無言でハガキほどの紙を見せた。
「……うわぁ」
 きらきらと色鮮やかな──写真シールのアレだった。ヴィンセントもアスターにねだられればこういうものを撮るのか、と目を落とす。仲良く二人で映っているが、やたらと目を引くのはヴィンセントの方だった。
 抜けるような肌と、黒髪には天使の輪。くっきりとした眼がこちらを見ていた。──相変わらず無表情だが。
「すごい……美人ね」
「あ、このフレームのかわいい!」
「……女みたいだ」
 感嘆半分、呆れ半分の声でティファはつぶやく。寄ってきた子供たちも彼女の手元を覗き込み、きゃいきゃい騒いでいる。
 どうにもタイミングを合わせるのが下手なアスターと違い、ヴィンセントは表情もぶれないしコントラストが高くて顔認識されやすい。並ぶとどちらがきれいに撮られるか言うまでもなく、それが気に入らなくてやさぐれているわけか。
「私たちの時は、ふつうにしてたんだけど」
 ティファともユフィとも、そしてマリンとも撮ったことがあるが、アスターがその仕上がりに不満を見せたことなどなかった。
「ヴィンは女の子じゃないもん……」
 話を聞いていたのか、不貞腐れたままのアスターが店の向こうから言って寄越す。
 女の子が可愛く補正されるのはかまわないが、ヴィンセントが本物以上に華やかに美人になっているのは何だかすごく悔しかった。自分があんまりうまく写っていないからなおさらだ。
 アスターは自分の容姿の、少なくとも美醜に関しては気にしたことがなかったが、並んでいてこうも様にならないと少し凹む。
「捨てるか?」
「ダメもったいない!」
 彼の指先でひらりと翻ったそれが、ゴミ箱に行き着く前にアスターは跳ね起きた。
 全力で駆けてきて、文句を言っていたわりに大切そうに手に取る。ヴィンセントはその髪をそっとなでた。きょとんと見返すアスターが、彼の穏やかな眼差しに気付いて頬を緩めた。
「私は知っている」
 彼が眺めたいのは写真ではなく本人であって、だから写真うつりなど気にしない。この子の笑顔を──その愛らしさが機械などに分かってたまるものか。




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