不死者の黄昏


 薄汚れたガラス窓から西日の射す廊下に、アスターは足を投げ出して座っていた。
 斜陽に、どこもかしこも気怠い懐古色に染められていた。空気中に舞うほこりが妙にきれいに光っている。
 昼の穏やかさと、夜半の高揚の狭間。暮れゆく空は切ないが、今の気分には合っていた。
 手にした一輪の花を、少女の膝に落とす。弔いの献花はもうかなり萎れていたが、それを手に取ったアスターはヴィンセントを見上げる。
「おかえり、ヴィンセント」
「……ああ」
 いつもと変わらず迎える声。
 切なくはあるが、かつて怖れた孤独は彼女がいることで免れている。
 うつらりと目を伏せた少女を抱き上げ、足は地下へと向かう。時の変化の見えぬ闇中の方が、心は痛まない。
「……みんな……還ってしまったね」
 地上に残る仲間は、もはや星降る峡谷を護る獣だけになってしまった。その彼とも、最近はだいぶ疎遠だ。
「……暫くは……二人きりだな」
 気遣う言葉にアスターはくすりと笑った。
「そうだね。しばらくは、ね」

 いつか──その時までは。




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