除夜


「……ソレ、何のまじない?」
 見ていたテレビが一段落して、寝っ転がっていたこたつから這い出してきたユフィは、訝しげに問う。
 こたつの縁には、きれいに剥かれて房も分けられたみかんが、皮に乗せられ並んでいた。数えてみると、五つ分。
「え?」
 ちょっと黄色くなった指で六つ目の皮を剥いていたアスターは首を傾げた。
 年の瀬に特に何の予定もないと言っていたアスターを、ウータイに帰省するユフィが誘ったのだ。彼女らが居を構えているニブルヘイムの住人とは少し距離があるらしく、祭りの類にも参加しないらしい。
 ユフィとしては、客がいれば親父の小言や挨拶回りからちょっとだけ解放されるという打算もあったが、気の置けない仲間と過ごすのも楽でいい。ほとんど自室でだらだらするばかりだったが。
「食べないの? てか、そんな食べんの?」
 みかんとはいくらでも胃に入るものだが、アスターが食べるには少し多い気がする。もう少ししたら蕎麦を食べるとも言ってある。
「えっと、二つでいい」
 じゃ何でそんなに、と言いかけ気付く。ユフィの位置からは黒髪がわずかに見えるだけだが、アスターの隣にもう一人転がっている。こたつに入っている間はずっと寝てる奴が。正直、でかいのがこたつに入っていると邪魔だったりもする。
「マメだねぇ〜」
「ん。ユフィも食べる?」
 軽く冷やかされても、アスターは気付かないのか気にしないのかにこりと笑う。
「自分で剥きゃいいのに」
 つぶやきながらもちゃっかり一山引き寄せたユフィに、アスターは無言で左手を上げた。握って開いて、思わせぶりな視線を自分の隣に──いるはずの男に──向ける。
「……あぁ」
 あの左手じゃ、確かにみかんは剥きにくかろう。じゃ外しなよ、と突っ込みたかったが、アスターの態度からするに触れない方がいいと悟る。
 そういえば昨日アスターに勧められたときは食べようとしなかった。それでわざわざ剥いてやるとか、まったく甘やかされているらしい。アスターも好きで甘やかしているのだろうから、別に構いはしないが。
「食べなきゃいいのに」
 笑いながら悪態をついたが、その拍子にヴィンセントがもそりと起き上がったのでユフィはちょっと身構えた。
 全部聞いてたらしいヴィンセントはユフィを一瞥しただけで、いつもの無表情でアスターにもたれるように擦り寄っていた。差し出されたたみかんを、やはり無表情で口に運んでいる様は妙にシュールだった。
「おいしいね」
「…………」
 そう言われてヴィンセントは返事もしなかったのだが、アスターの方はへにゃへにゃ笑っていた。ちょっとだけ頬が赤いのは何でだ。
「……あんたらって、ホントさぁ」
「ん?」
 見ているだけで甘いし、冷やかしても慌ててくれないので面白くない。まぁ、バカップルというよりかは親子っぽいせいで欝陶しくはないが。
「ごぉちそうさま〜」
 それでもうっかりニヤニヤしながらユフィは立ち上がる。
「あとでお年玉もらうからね!」
 宣言しながら蕎麦をもらいに退散した。




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