に狂って、が狂う。





「優しい感情じゃないんだ」

吐息を混ぜて囁いた。どこまでも柔らかくどこまでも残酷に、君の鼓膜に響かせれば消えずに反響を繰り返すだろうか。
いつまでも脳内で響き続けて、この声を忘れなければいい。永遠なんて生温い。未来永劫来世までも、ただただ刻みつけるよう、に。

「上辺だけなら甘い言葉だってあげられる。憎しみを乗せた音で良ければ」
「いりません、そんなの」

乾いた笑いが弧をかたどった口から漏れた。最初から笑うように作られた人形のように無機質なそれを、彼女は眉間に皺を寄せて睨んでくる。

「でもただ甘い愛情なんてすぐに飽きてしまうだろう?ひたすらに憎むことは、ひたすらに愛することと同義のような気がしないかい?他のすべてを排除してたった一人を想い続ける憎しみなんて、きっと至高の感情だよ」

私は君に飽きたくないんだ、とどろりとした声音で微笑みかける。憎しみも愛情も盲目的に相手を想う感情だというのなら、どちらでも構わない。

「ただ君の脈と呼吸があればいい。それが君という存在に繋がるならこの空気さえ愛しいと想うよ」
「狂って、ます、」
「狂気だって感情だ。君に向ける感情は全て愛情で、憎しみなのだから」

やがて闇に潰えるのだとしても、そこに君がいるのなら。閉鎖された世界で愛を注いで、狂う私に君の正気はいつまで持つのだろうね。

「だから玄奘、」

とろけるような微笑みを、捧げて愛を語りかければ、優しい君は拒絶できない。
分かっていて、束縛した。

「君も早く、狂うといい」

君の狂気を見てみたいんだ。





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テーマ「人外ファンタジー」
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