やがてひとひらゆめのかけら。

「お久しぶりです、ナタク」
「……何故お前がここにいるのだ」
「真君に連れてこられました。いきなり宴会をやりたくなったらしくて、向こうに八戒達もいますよ」
(あの男は…また……)

説明された現実に目眩を感じたら、自分の気分と都合だけで物事を進める男の、愉快そうな笑い声が隣の部屋から聞こえてきた。相変わらず殺意しか覚えないその存在は、今日も思いつきで他人を振り回しているらしい。しかし、

「ナタク?頭が痛むのですか?」
「…いつものことだ」

こめかみを押さえながら、よりにもよって三蔵法師達を巻き込んでいるとは…と心の中で悪態をつけば、三蔵法師がこちらを覗くように視線を合わせてきた。

心配そうに、とでもいうような表情で。

(…相変わらずのようだな)

お人好しなその人間は、自分を傷付けた相手にまで慈愛を注ぐ。前世があの金蝉子であった故か、それともこの人間自身の性分なのか、恐らくは両方なのだろうけど。
そしてその慈愛は、酷く居心地の悪い安心感に満ちていた。

「ふふ」
「…なんだ」
「いえ、変わりないようで良かったと、思いまして」

柔らかく花が咲くように綻ぶその笑顔に、奇妙な感覚が胸の奥から湧き上がる。なんなのだ、と心の中で呟いて未だこちらに向けられている笑顔から視線を逸らした。
何故だかまともに見れない。

「こうして皆で騒いでいると夢のようですね、なんだか」
「迷惑な夢だ」
「そうですか?私には幸せな夢です」

幸福と慈愛に満ちた微笑み。
視界の端に捉えた三蔵法師は、こちらに少しだけ視線を向けてくる。

「あなたが今、こうして穏やかに暮らしているのが分かっただけで、良かった」

それは、三蔵法師を傷付けた私に向かって言う台詞ではないような気がしたけれど、そう言えばこの人間は自共に認めるお人好しなのを思い出して、喉まで出かけた皮肉を飲み込んだ。
代わりに、諦めに似た言葉をひとつ。

「…お前も、な」

それはまるでゆめのような感覚。
(彼女が自分の隣で笑っているなんて)




 に
(今度こそ、悪夢ではなく)




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