巨人遊戯 | ナノ




「流石名前なのだ。本物の巨人相手は初めてなのに、訓練通り的確だった」


屋根に着地した名前に手を差し伸べたのは井宿だ。そんな彼の手を握り、彼女は立ち上がる。


「井宿こそ。一気に二体とか、やるやん!」


にっ、と歯を見せて笑う名前に井宿も微笑み返す。二人は巨人を倒す際のコンビでもあり、恋人でもあるのだ。




「おーい!お前等、生きとるか〜?」


翼宿の声に二人が振り向くと、其処には同期の兵士達が集まっている。


「生きてるで〜!」

「今、そっちに行くのだ!」


名前と井宿は返事をすると、立体機動で彼等の元へと向かった。


「名前さん、凄かったです!奇行種をあんなに素早く倒せるなんて…!」


まるで飼い主にじゃれつく犬のように名前に寄って来たのは、亢宿だ。彼は名前を姉のように慕っており、また彼女も亢宿を弟のように可愛がっている。恋人の井宿としてはそれが些か面白くない。


「さあ、そろそろ帰るのだ。撤退の合図が出ている」


少し拗ねたように言う井宿の言葉に、皆が空を見上げる。其処には確かに撤退の硝煙弾が上がっていた。






「皆、良くやってくれた。君達のお陰で、被害は最小限に止められた」


訓練兵の教官が、壁の中に戻って来た新米の兵士達に言う。どうやら家の損壊等はあったものの、兵士達にも一般人にも、犠牲者は出なかったらしい。


「良かったなあ」

「だ。新兵ながら、ちょっとは役に立てたのだ」




「名前。ちょっと良いか?」


人的被害が出なかった事を喜び合う名前と井宿。そんな二人の背後から、教官が声を掛けた。


「何でしょう、教官?」

「ああ。お前には是非、憲兵団に行って貰いたいんだ。陛下達ての願いでな…」

「え…」



どうやら国王は名前の噂を耳にし、自分の下に仕えさせたいと思っているようだ。突然の教官の言葉に、名前は戸惑いを隠せずにいる。彼女は井宿と共に、調査兵団を志願するつもりだったからだ。


「おいらは一人でも大丈夫なのだ!折角首席卒業で、ラブコールまで頂いてるのだから、君は憲兵団に行った方がいいのだ!」



驚きのあまり立ち尽くす名前の肩をぽん、と叩き、井宿はこう言った。彼は元々危険度の高い調査兵団に恋人が入る事をあまりよく思っていなかったのだ。これをチャンスとばかりに名前に憲兵団行きを勧める。名前は拳を握り、敬礼をすると、教官を見つめた。



「申し訳有りませんが、私はこの心臓を巨人と戦う為に捧げた兵士!ぬくぬくと一番安全な壁の中で過ごす事は出来ません!!」



名前は国王の命に背いてでも、恋人と共に巨人を駆逐する道を選んだのだった。





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