巨人遊戯 | ナノ



巨人の徘徊する街に、笛の音が響く。その音が聞こえた途端、一匹の巨人の動きが止まった。


「角宿!」

「OK、兄貴!」


笛を吹いていた少年は、それを確認すると大声で叫ぶ。すると同じ顔をした少年が飛び出して来て、巨人のうなじを削いだ。


「よっしゃ!討伐数1!」

「やったな、角宿!」

「兄貴も討伐補佐1だぜ!!」


この二人は双子である。先程、訓練兵団104期を10番と9番で卒業した角宿と亢宿だ。


「ほら、二人共。余所見をしている場合ではありませんよ?次が来ました」

「「氏宿!」」

「此処は私が…」


ハイタッチを交わしている亢宿と角宿の後ろから現れ、刀を抜いたのは訓練兵団を8番で卒業した氏宿である。彼は独特の美的センスを持ち、巨人の倒し方にもこだわりがあるようだ。ぺろりと刀を一舐めすると、立体機動を開始した。


「あ〜ら、カカカのホモ!あんた一人に良いとこ取りはさせないわよっ!」


何処からともなく立体機動でやって来た女言葉の彼は、7番卒業の柳宿だ。氏宿とはコンビを組んでいるが、争いが耐えない。現に今も言い合いをしながら巨人と戦っている。



「あいつらまたやっとるで…」

「ほっとけ翼宿!俺等はこっちに集中しようぜ!」


呆れたように柳宿と氏宿を見つめるのは、方言で話す翼宿だ。彼は訓練兵団を6番で卒業している。火を操り、一度に多くの巨人の足止めをする事ができるのだ。そんな翼宿の相方は、対人格闘術の成績トップの鬼宿だ。彼は訓練兵団を5番で卒業した。この二人は親友同士で、息の合ったコンビプレイを披露する。



「房宿…」

「はい、心宿!」


切れ長の目の美人が空に手を掲げると、巨人の上に雷が落ちた。そこに金髪碧眼の男が飛び出し、巨人のうなじを美しく削ぎ落とす。雷を操った彼女は房宿。訓練兵団を4番で卒業した実力者だ。そんな彼女と行動を共にしているのは心宿。兵士としては大変優秀であるが、房宿以外とのコミュニケーションが上手く行かず、協調性に欠けるとして3番卒業となった。




「よっ…と。君達には悪いが、これ以上先には行かせないのだ!」



目にも留まらぬ速さで、巨人を二体同時に討伐したのは、訓練兵団を2番で卒業した井宿だ。術を使う彼は立体機動との混合技を使い、同時に数体の巨人を討伐出来る。ここまでで登場した9人は、異世界から現れ、この世界を巨人から救ってくれる巫女を護る為の戦士でもある。彼等の他に、救護班に軫宿、作戦班に張宿、憲兵団に星宿がいる。




「き、奇行種が…、奇行種が来たぞお!!」



突然、誰かの叫び声が聞こえ、辺りの空気が変わった。今まで現れていた普通の巨人と違い、奇行種は予想の付かない行動をする為、兵士達も対応が難しいのだ。



「名前!奴はそっちに向かってるのだ!!」

「了解!!」


井宿に"名前"と呼ばれた彼女、名字名前は、訓練兵団を首席で卒業した逸材だ。対人格闘では鬼宿に劣るものの、巨人討伐法の正確さや立体機動の扱い方は訓練兵の誰よりも秀で、現在の調査兵団の兵士達に勝るとも劣らない。また、彼女も術者である為、巨人の動きを止める事が可能だ。



「覚悟せえや、奇行種!」



そう言って印を結び、立体機動でひらりと空を舞った名前は、寸分の狂いもなくうなじを削ぎ落とした。彼女が首席に選ばれたのは、その討伐時の美しさも評価されたからである。パフォーマンスのように見えるが、その動きは他の巨人からの攻撃を上手く躱す為の手段なのだ。蒸発する巨人の血の中をくぐり抜け、名前は屋根の上に降り立った。





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