短編 | ナノ
「名前さん!!」
倶東国に戻って来た名前の後ろから、嬉々として彼女を呼ぶ声が聞こえる。
「亢宿!ただいまー」
「おかえりなさい!」
声を掛けたのは亢宿だ。彼は名前の元まで走って来ると、とびきりの笑顔で彼女を迎えた。ぱたぱたと犬の尻尾が大きく揺れるのが見えそうなくらいである。
「本当に、よくやるよ…」
ぼそりと呟いたのは房宿だ。名前と亢宿の歳の差は六つ。下手をすれば犯罪だ。
「うっさいなー。歳の差とか関係ないって、前も言うたやろ?」
「そうですよ!愛があれば、大丈夫です!」
こう言った後に微笑み合う名前と亢宿。完全に自分達の世界入り込んでしまった二人に、房宿は溜め息を吐いた。
「あんた達が良いなら良いけどさ。私には年下を選ぶ気持ちが分かんないね」
房宿はこう言い残すと、渋い顔をして立ち去った。
「あの、名前さん…」
「ん?何?」
「手、繋いでも良いですか…?」
房宿が立ち去った後、二人は宮殿の外を散歩していた。遠慮がちに彼女を見詰め、問い掛ける亢宿。そんな彼に名前は微笑んだ。
「別に、確認せんでもええのに…」
優しく自分の手を取って歩き始めた亢宿に、名前はこう言った。恋人同士なのだ、手を繋ぐのにいちいち許可など要らないだろう。
「…そうなんですか?」
「うん。あと、敬語もええで」
「え。でもそれは…」
「角宿は敬語違うやん。呼び捨てやし」
戸惑っている亢宿に、名前は角宿の事を持ち出した。彼は名前に敬語を使わないし、名前を呼び捨てにしている。それなのに恋人の亢宿が敬語で"さん"付けだなんておかしいではないか。
「なあ。名前、呼んでみてや」
自分の両手を握り、向かい合うように立った名前ににこにこと見詰められ、亢宿は頬を赤く染めて俯いた。
「名前…」
「ふふ。上出来…!」
名前を呼ばれ、嬉しそうに笑うと、名前は亢宿の頬に軽く口付けたのだった。