短編 | ナノ
「ちょお、名前!こっち来い!」
「ぎゃー!何なん!何なん!?」
廊下で柳宿と話していた名前は、翼宿に突然襟首を掴まれ、引きずられて行く。
「名前、頑張って〜」
「"頑張って〜"と違うわ!助けてや柳宿!って痛い!翼宿痛いって!!」
笑顔でひらひらと手を振る柳宿に、名前は助けを求める。その途端に、翼宿が彼女を引きずる速度が上がった。首が締まった名前は苦しそうだが、そんな事はお構いなしに翼宿はずんずんと歩いて行く。
「黙っときなさい。余計手が付けられなくなるわよ?」
「もうほんま、何なんよおおおお!」
呆れたような柳宿に見送られ、名前は半ば悲鳴のような声をあげながら、翼宿の部屋に消えて行った。
「…お前は誰の女や?」
部屋に入るなり、翼宿は名前に問い掛けた。その瞳には不安の色が見える。
「ごほ…、何なんいきなり」
「誰の女か聞いとんねん!答えろや!」
涙目で咳き込む名前に、翼宿は声を荒げた。暫く見詰め合っていた二人だったが、先に名前が目を逸らした。
「…翼宿のやろ?言わすなや恥ずかしい」
赤面し、名前はぼそりと呟いた。翼宿はその言葉を聞くと、大きな溜め息を吐き、乱暴に彼女を抱き締めた。
「…お前、柳宿と仲良過ぎやねん」
「ん?」
「あんまべたべたすんな。…妬く」
翼宿は名前の肩に顎を乗せると、こう言った。彼女に赤くなった顔を見られたくなかったのだろう。
「…あれ、やきもちやったん?」
「悪いか」
「ふふ。そっかー!」
「何やねん!」
「別にー?」
先程の行為が全て嫉妬心からだと分かり、名前は嬉しそうだ。茶化しながら、彼の頭をぽんぽんと叩く。
「ガキ扱いすんなや!」
「ええやん。実際年下やねんから」
頭を叩く行為が、子供扱いされているようで気に入らないらしい翼宿。そんな彼に名前は言った。
「嫉妬の仕方とかちょっと強引な所とか、子供っぽいと思うけどさ、そんな翼宿やから好きやねんで?」
翼宿は、この言葉を聞くと名前を抱き締める力を強めた。やはりこの女には敵わないと思いながら。