捧げ物 | ナノ



"ふぇぇ…"

"張宿ったらもう…泣かないの"

"だって、僕には出来ないです…"

"さっきまでは'私を護る'って言ってくれてたのに?"

"そ、それは…"

"大丈夫。張宿なら出来るよ"






張宿は、懐かしい夢を見て目を覚ました。字の安定しなかった二年前、朱雀の巫女である名前はいつも、こう言って自分に微笑んでくれていた。




「…名前さん」



そんな優しい名前に、張宿は想いを寄せていた。しかし、彼は想いを伝えることをせずに元の世界に帰る名前を黙って見送ったのだ。





「あの時何かしていれば、何か変わっていたのかな…?」




二年経っても、張宿は名前を忘れられずにいた。字も安定し、官職に就いて、自分に自信を持てるようになってきたこの頃、彼は二年前に想いを伝えなかったことを悔いていた。





「おい、張宿!ちょっと来い!」



はあ、と張宿が大きく溜め息を吐いた時だった。軫宿の大きな声が彼の耳に入る。


「軫宿さん?どうしたんですか?」

「いいから早く来るのだ!」

「井宿さんまで…」



扉を開けて顔を出すと、その身体は軫宿と井宿によって瞬く間に庭まで運ばれて行く。



「何ですか、二人共?一体何、が…」








「張宿…?」



「っ名前、さん…?」





困ったように笑っていた張宿がそこで目にしたのは、先程まで心に思い浮かべていた名前その人だった。





「本当に?本当に、張宿、なの…?」



くしゃりと顔を歪ませた名前が、張宿の顔を見上げて尋ねる。その目は涙で潤んでいた。



「はい。張宿です、名前さん」

「っ張宿!」



同じように涙を浮かべながら微笑んで返事をした張宿。そんな彼に名前は飛び付く。




「逢いたかった…っ」


二年の間に随分と身長が伸び、男らしくなった張宿の身体を、名前はぎゅうぎゅうと抱き締める。昔の彼ならきっと彼女を支えることすら出来なかっただろう。



「僕も逢いたかったです、名前さん…」



もう離すまいと思いながら、張宿はこう言って名前の身体を抱き締めたのだった。



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