捧げ物 | ナノ



「うきゃーーーーーーーっ!!」


ある朝の事だった。宮殿の中を名前の嬉々とした叫び声が響き渡った。


「どうしたのだ名前?!…っだあああ!?」


叫び声を聞いた井宿が部屋の扉を勢い良く開け、彼女の姿を目にすると彼もまた叫び声をあげた。


「何や、朝から騒がし…ぶはっ!」

「翼宿!?どうし…おおおお!」


口を押さえて扉の前に立ち尽くす井宿の横から、翼宿が部屋の中を覗いて鼻血を吹き、そんな翼宿に駆け寄った鬼宿も原因を探ろうと顔を上げて叫んだ。



「見て!ってか見た!?ほら!これ!ボンキュッボンやで!!」



そこには下着姿で鏡の前に立つ名前が居た。しかしいつもの彼女ではない。まな板と言っても過言ではない名前の胸が、某怪盗アニメのバイクのお姉さんよろしく巨乳になっていたのである。



「どどどどうしたのだ!?突然そんな…」

「昨日軫宿に頼んで豊胸の薬作ってもろてん!どや!!」

「ぶっ!」

「うぉ!翼宿!お前はもう見んな!!」



誇らしげな表情でポーズを決めながら、井宿の質問に答える名前。そのポーズに悩殺されたのは、井宿ではなく翼宿だった。だらだらと鼻から血を流す翼宿の目を、鬼宿は両手で塞ぐ。



「どや!じゃないのだ!どうしてそんな見せびらかすのだ!」

「嬉しいんやもん!」

「嬉しくても駄目なのだ!ほら!鬼宿君は翼宿を連れてさっさと軫宿の所に行く!」

「お、おう…」


異常なまでに鼻血を垂れ流す翼宿を見て、井宿は彼を軫宿の部屋へと連れて行くよう鬼宿に促した。それに了承の返事をした鬼宿だったが、彼は名残惜し気に名前の方を向く。


「早く行くのだ!!」

「…っ!おら!行くぞ、翼宿!」


そんな鬼宿を急かすように、井宿は声を荒げる。その声に、井宿の機嫌を損ねたことに気付いた鬼宿は、翼宿の目を塞いだまま全速力で駆けて行った。






「はぁ…」


部屋の扉を閉め、井宿は大きな溜め息を吐いた。名前が貧乳にコンプレックスを持っていることは誰よりも理解していたはずだったが、まさか軫宿にそんな薬を頼むとは思わなかったのである。



「おいら、別に巨乳好きではないのだ」

「…知ってる」



井宿からのジトリとした視線に耐え切れず、名前は気まずそうに目線を落とす。そして消え入りそうな声で言った。



「…でもやっぱ、女の子らしい身体になりたいやん」




今にも泣きそうな名前の身体を、井宿は後ろから抱き締める。



「君って娘は本当に、しょうがないのだ」


そう言って井宿は名前に口付けを落としたのだった。











おまけ




「ぶは!名前お前、ちょ、俺に近づくな!!」


「あ、翼宿。自分、巨乳好きやってんな」

「近づくな言うとるやろ!って、お?」

「一日限定でした〜!ざまあ」

「おま、ふざけよって!!」






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