捧げ物 | ナノ
「あら?名前それ、新しい服?」
名前が下ろしたての服を着て自室を出ると、柳宿が扉の前でこう尋ねた。今日は彼と出掛ける約束をしていたのだ。
「そうだよ。…どうかな?」
柳宿の問いにこう答えると、名前は服の全体を見せるためにくるりと回る。
「似合ってるわよ。折角だから髪、結ってあげるわ」
「本当?ありがとう」
名前は柳宿に二つの意味で礼を述べ、彼の部屋へと入った。
「私、柳娟に髪結って貰うの好きだな」
柳宿が髪を結い始めると、気持ち良さそうに目を閉じながら、名前は言う。
「あら、何で?」
「だって、とっても優しい触り方なんだもの」
聞き返した柳宿を、名前は鏡越しに見つめた。
「私だって、名前に髪を結って貰うの、好きよ」
「ふふ。ありがとう」
暫く鏡越しに見つめ合ったあと、柳宿はこう言い、名前の髪を結うのを再開する。名前はまた、目を閉じた。数分間、二人の間に沈黙が続いた。
「…ねえ、名前」
「なあに?」
今度は柳宿が名前に呼び掛ける。
「好きなのって、髪を結ってあげることだけ?」
ぼそり、と聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声で、彼は言った。照れ臭かったのだろう、余所見をする彼の頬は少し赤い。
「柳娟がしてくれることなら、何でも好きだよ」
「どうして…?」
目を瞑ったまま、名前はこう言った。そんな彼女を、柳宿はまた鏡越しに見つめる。
「柳娟が、大好きだから」
名前はゆっくりと目を開けると、こう言って微笑んだ。
「…私も、名前のこと大好きよ」
「ふふふ。柳娟、これからも一緒に居てね?」
「当たり前でしょ!」
"ほら、完成!行くわよ!"
先程までよりもずっと顔を赤くし、柳宿は部屋を飛び出した。名前はそんな彼のあとを微笑って追いかけるのだった。