捧げ物 | ナノ




「ご飯にする?お風呂にする?それとも…、私?」


井宿が帰宅した途端、玄関先で新妻の名前が言ったのはこの言葉だった。井宿は扉を閉めることも出来ずに、目をぱちくりとさせて彼女を見つめる。



「な〜んて、冗談だよ。おかえり、井宿」



そんな彼の表情を見て、名前はにへら、と笑った。どうやら結婚したら一度は言ってみたかった台詞らしい。ご満悦な様子で踵を返した彼女の身体を、井宿は後ろから優しく抱き締める。



「それじゃ、お風呂で名前をいただくことにするのだ!」

「へ?…きゃあ!」

「一度言ったことには責任を取って貰わないと、困るのだ」




軽々と名前の身体を抱えると、井宿はそのまま脱衣所へと向かう。



"ああ、スイッチを入れてしまった"

名前は数分前の自分の行動を嘆いたが、今となってはもう遅い。抵抗する間もなく、一糸纏わぬ姿になってしまった。



「ちょ、井宿…」

「言い出したのは名前なのだ。はい、先に入って〜」


抵抗しようと振り返るが、それも意味をなさない。背中を押され、名前は風呂場へと足を踏み入れることとなった。






「だ〜、いい湯なのだ〜」

「はいはい、そうですね〜」


満足気に笑う井宿に対し、名前は若干げんなりである。あれから風呂場に入って来た井宿にあれよあれよと湯船に入れられ、今は彼の脚と脚と間に体育座りをさせられているのだ。




"まあ一緒にお風呂に入るくらいならいっか…"


初めは抵抗したが、入ってしまえば別に嫌ではないから不思議なものだ。しかし、腰部分に触れるお湯とは違う熱を感じると、名前は顔を顰めながら顔を井宿の方へと向けた。




「…井宿、当たってる」

「わざとなのだ〜」


にやりと楽しそうに笑い、井宿は名前の身体を近づけ抱き締める。触れ合う肌と肌は、また新しい熱を生み出していく。




「…本気?」

「勿論。そう言う名前だって、満更でもなさそうなのだよ?」



"ここ、こんなになってる"


なんて耳元で囁かれてしまえばもう、名前には抵抗など出来ないのだ。ぞくりと身体を震わせると、動き回る井宿の指を受け入れて、喘ぐだけ。



「あぁ、ん…や、声っ、響くぅ…」

「ん。いい響きなのだ」

「やっ、恥ずかし、ん」


いつもよりもよく響く自分の喘ぎ声と、わざとらしい井宿の低い囁きに、名前の羞恥心は高まるばかり。それと比例して快感も高まって行く。もはや抵抗する気などなくした名前の身体をくるりと回転させると、井宿は彼女の唇に噛み付いた。


「…は、名前、」

「ん、ふ…、井宿、ぁ、はやく…っ」


「…そんな風に誘われたら、おいら手加減出来ないのだ、よっ!」

「は、あぁぁ…!んんっ…ふ、」



とろんとした瞳で、はやく、なんて言われてしまえば、飛びかけていた井宿の理性は一瞬で崩れ去った。名前の身体を持ち上げると、一気に自分の上へと落とし、突き上げる。


「あ、あぁん、ん、」

「は、名前っ、」

「ちち、り…井宿ぃ」



水面が揺れる。なみなみと浴槽に張ってあった湯が、もう三分の二にも満たない。それが行為の激しさを物語っていた。


「ね。っあぁ、井宿っ」

「っだ?何、なのだっ?」

「あぁ、っはやく、子供、んっ、欲しい、っね」

「そう、だなっ、」



"じゃあもっと頑張らないと"

律動を止めることなく、井宿は名前の耳元で囁いた。まだまだ二人の入浴は終わりそうもない。









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