捧げ物 | ナノ
買い物の帰り、突然隣を歩いていた恋人の姿が消えた。亢宿がくるりと振り返ると、彼女は数歩後ろの道端に座り込んでいる。
「名前さん…?どうかしましたか?」
具合でも悪くなったのだろうか。そう思った亢宿は、少し慌てた様子で名前に駆け寄る。彼女はしゃがんだままにこりと微笑って、隣にやって来た亢宿を見上げた。
「猫が居るの」
名前の座っている正面では、白い年老いた雌猫が毛繕いをしていた。
「可愛いですね」
「ねー。逃げないし、人に慣れてるのかな?」
にこにこと猫を見つめる名前。亢宿もそんな彼女の隣に座り込んだ。すると、何処からか別の猫の鳴き声が聞こえてくる。その声を聞くと、雌猫はぴくりと反応した。
にゃーお
鳴き声と共に、灰色の年老いた雄猫が草むらから姿を現す。雌猫はその姿を見るや否や、尻尾をゆらゆらと揺らしながら駆け寄って行った。
「帰りましょうか」
二匹の猫がじゃれあいながら去って行くのを見て、亢宿は立ち上がった。
「そうだね」
亢宿から差し出された手を取って、名前もゆっくりと立ち上がる。手を繋いだまま、二人は歩いていった。
「ね。亢宿」
もうすぐ家に辿り着く、そんな時だった。名前は歩みを止めることなく亢宿に声をかけた。
「何ですか?」
「おじいちゃんとおばあちゃんになっても、こんな風に手を繋いで歩きたいね」
名前は真っ直ぐ前を見ながらこう言った。先程の猫達を見て、自分達もあんな風に年を取りたいと思っていたのだ。
「…そうですね」
少し照れたように、繋いだ手に力を入れた亢宿。それを感じ取った名前は、嬉しそうに微笑んだのだった。