イグニールのことになると我を忘れてしまうナツには嫌悪感が募るばかりだ。たしかに、ナツにとってみればイグニールは育ての親なのだから、慕うのは当たり前だとは思うが、少々度が過ぎている気がする。
「ナツ…あのよお、お前の気持ちはわからなくもないがあんまり皆に心配かけんなよな」
「うるせー、関係ねえだろグレイには」
わからねえよ、わからないからこそお前がどんな感情をイグニールに抱いているのかを知りたいんだ、それじゃあダメだっていうのかよ。と言い返したいのを抑えて、何も言わずにその場を去る。
こういう時のナツはそっとしておくに限る。冷静になれば、また馬鹿みたいな言い合いが始まる。日常が戻ってくる。普段から甘え上手なナツに戻る。だからギルドの奴らは近づくことのないようにしている。
「はあ…何で近づいちゃうんだろうな、傷付くってわかってんのにな。」
そうだ、理解していているんだが、イグニールだけを見てほしくない。忘れろだなんて酷なことは言わないが、辛いのだ。喧嘩を忘れるくらいに向こうばかりを見て、俺のことを忘れている気がして。ナツにとっての俺の存在価値なんてものはそれはもう底辺でしかないだろうが、俺にとってみれば居なくちゃいけない仲間なのかもしれない。
きっと明日には全てなかったように、声を掛けてくるだろう。
「なんで、好きになっちまったんだろーな」
苦しむ心が増しながら、気持ちに扉を閉める。
お前が俺を見ていなくとも/0328