基不 | ナノ




からっぽになってよと基山は言った。からっぽにして、ぜんぶぼくで埋めたいよ。そうでないときみが、ふらりとどこかへ行ってしまうような気がして、不安で不安でしょうがないんだ、と。

おれは当然といった風にそれを許してやった。しかし本音を言えば嫌だ。痛いのも苦しいのも嫌いだ。基山のためにおれが苦しまなきゃならないという事実をどうしても受け入れたくはなかった。この機会にこいつから離れてやろうと策を練った。でも、きっと離れてしまえばおれたち二人は生きていけないということに気がついてやめた。その策はまたいつかのために大切にとっておくつもりだが。とりあえず今はそんなことはどうでもよくて、おれは毎晩からっぽにされる。奴の言った通りすべてを。



ぜんぶ出しきって、2人で一頻りはあはあ息を整えた後、奴はおれに必ず謝罪をする。痛かったよね、苦しかったよね、よくがんばったね、ごめんね。ごめんね。

最中はあんなに悦んだ顔で、気持ちいいだろとでも言いたげな様子なのに。その扱いの落差に失望する。どうせならそんな最低な行いを貫き通せばいい。そうしてくれたらおれはお前のことが嫌いになれるのに、お前から離れられるのに。決しておれはそんな愛のある行為を悦んでなどいないのだから。






「うぇっ、げほっ、」
「、」
「もう出しきったって、もう胃液しか出ねえ、よ」
「、」
「いい加減やめ、あっ、うあっ、ぐえ、」



どうやら機嫌が悪いらしい基山はいつもより強く長くおれの腹により確実に蹴りを打ち込む。そうしてまたいつものようにお決まりのパターン。奴が謝っておれのことを愛して愛してはいおしまい。だったらよかったのに。きょうの基山はそうではなかった。





「だって不動くんが悪いんだ」
「は、?」
「あれはぜったい、浮気だ」
「、」
「おれはぜえったい謝らないからね」


行為が終わってからどうしてああも虫の居所が悪かったのか問いてみた。するとこんな応えが返ってきた。おれがチームメイトに関わっていたことに対して、奴のくだらない勘違いが発動したらしい。いわゆる嫉妬。おかげさまでおれはいつもの倍、腹に痣を作って、せっかく胃に詰めた食べ物を吐き出して、溶けかけてグロテスクな色に染まった物体へこんにちはしたというのに。その原因が基山のかわいいかわいい女々しい嫉妬だなんて。しかも勘違いの。

あまりにムカついたから奴の腹も蹴ってやった。案の定基山はおれみたいにからっぽになった。いい気味だ。実はムカついた反面嫉妬してくれるだなんてほんのちょっぴりうれしかった。照れ隠しのつもりで蹴ってやった。

しかし奴の言ったからっぽの快楽にまんまと嵌まってしまったことに深く後悔した。スカスカと細胞が死んでいくかのような胃の中に反して悦び満ちる内側の二律背反が堪らなかった。ゾクゾクした。俗に言う快感だ。基山も思いの外悦かったようでびくびく身体を奮わせて歓喜に満ち溢れていた。2人の高笑いが重なりあう。



そんなことがあった日からおれたちは腹を蹴り合い、中身をからっぽにしてぶちまけ合った、毎晩2人で笑い転げた。それははじめて地上で息を吸った魚のような、狂喜染みた笑いだった。2人の笑声と、内から吐き出される異常な水音が深く絡み合う。さながら腸のように。





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ありがとうございました


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