いつか大きな花束を、跪かれながら渡されて「僕と結婚してください」とプロポーズされたい。
これが、私が思い描く小さい頃からの夢だった。

二週間ほど前、同業者であり依頼人(つまりは金ヅル)でもあるヒソカに誘われて食事に行った。
言うまでもなく奴の奢りだ。
しかしこれが悪かった。毎日迷惑をかけられている分、がっつり食べてヒソカの財布を困らせてやろうと……今考えてみれば無謀としか言いようがない考えが浮かんでしまったのだ。
私がどんなに食べようと、ヒソカの財布が困ることはない。
そんなことは火を見るより明らかだったのに。

私は高級フランス料理を吐くほど堪能した。
勿論お酒も大量に飲んだ。
そのせいで私は、普段では考えらられないような酔っ払い方をしてしまったようで、自分の幼少期からの夢ーー大きな花束を渡されてプロポーズされたいというーーを、大々的に話してしまったらしい。
それも、ヒソカに。
あろうことか、ヒソカに。

それからというもの、毎朝毎朝家の前に花が置かれるようになった。
一昨日は秋桜、昨日はかすみ草。
犯人なんてわかり切っている。
変態奇術師ヒソカだ。
花に特殊な念がかけれれているようで、丁度二週間前に(一方的に)プレゼントされたマーガレットはまだ受け取ったときのまま、美しく咲き誇っている。
花に罪はない。
どんな変態からプレゼントされた花でも、花は花だ。
その為に、私は受け取った花達を未だ捨てられずにいた。

今日は何の花が置かれているだろう。
朝食を食べ終えて、顔を洗うついでに玄関へいく。
少し浮き足立っている自分に若干の嫌気がさしつつドアを開けると、いつも花が置かれている場所には、靴。
ーー靴?
そのまま視線を上にあげると、綺麗な顔。

「やあ☆」

にこーっと不気味に笑った顔に既視感を覚える。

「……なんでいるの」

ドアを閉めようとするが、ドアの間に体を挟まれてしまう。
くそ、チェーンロックをしておくべきだった。
過去の自分を悔やんだところでどうしようもない。
今すべきことは、玄関への侵入を許してしまったコイツをどうするか、だ。

「あれから二週間だろう?君の部屋も花で沢山になってると思って☆」

さも当然、といった風に部屋に上がり込もうとするヒソカを制する。

「あんなの全部捨てたわよ」
「嘘だね☆」

またもやにっこりと笑顔を向けられてしまい、何も言えなくなる。
抵抗虚しく、ヒソカは私の部屋に上がり込んでしまった。

「ほら、やっぱり☆」

部屋に溢れる花々を見て、ヒソカは満足そうに私を返り見た。

「流石にこれだけあれば君の好きな花はあるだろう?」
「は?」

部屋の真ん中に位置する赤い薔薇に触れながら言うヒソカ。

「どれが君の好きな花だかわからなかったからね☆とりあえず目ぼしいものは全部贈ってみたんだ☆」

そのまま、流れるような動作でヒソカは薔薇を一本手にとった。
私の好きな花とはどういうことなのかと問う前に、私へヒソカが跪いた。

「なまえ、ボクと結婚してくれるかい?」

呆然と立ち尽くす私が、ヒソカに発したのは「はい」でも「いいえ」でも無かった。

「ねえヒソカ、私達付き合ってすらいないのよ?」

事実を告げた私に対して、たっぷり五秒、間を開けてからヒソカが顔をあげる。

「……え?」

唖然とするヒソカ。
私とヒソカの間には何か重要な思い違いが生じていることを知る、綺麗に晴れた日曜の朝。



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