なまえには、ジョージを見つける特別なセンサーがついているのではないかと思う。

「いた!」

はるか遠くの方に歩いていたジョージを瞬時に発見し、ピコン、と音が聞こえてきそうなほど勢い良く反応したのはもちろんなまえである。授業中に居眠りをしたジョージがただ一人で罰則を受けている最中だといった時の、彼女の顔は良くも悪くもすごかった。罰則を受けているジョージ先輩も素敵だとかかわいそうだとか変わってあげたいだとか、百面相をするなまえは見ものだが、彼女は少しジョージに盲目すぎる節がある。こうして俺が隣にいるにも関わらず、全く同じ顔をしている俺に見向きもしない。俺自体がなまえに特別な感情を抱いていないから何も思わないものの、ここまで真っ向からあからさまにジョージを贔屓されると辛いものもある。何せここまで似ているし似せている節もあるというのに、どうしてここまではっきりと見分けられるのだろうか。

「ねえフレッド、ジョージだ!行こう!」

まだ遠くの方にいるジョージは、俺たちに気付いていないのだろう。まず顔の向き自体がこちらに向いていない。行こう、と俺の手を引くなまえにつられることなく、逆にその手をグイッとつかんで引っ張った。もちろん、驚いているなまえを見ても想定済みなので何も思わない。

「いかせなーい」
「え、なんで?ジョージがいるのに!」
「さあ」

なんででしょう。そう問いかけてみた俺自身も何でかはよくわかっていなかった。ただ、ちょっとした悪戯心だった。どうせジョージのもとに行って、三人で大広間へ向かうだけなのだ。少しの間引き止めたって何の支障もない。それに、遠くにいるジョージは、すでにジョージの存在に気付いているなまえとは違って気づかないかもしれない。なまえがジョージを好きなのは分かってる。ジョージもなんだかんだなまえを一番大切に思ってて、きっと好きなんだろう、って相棒だからこそ見ていてわかる。付き合っていなくても、二人自身には分かっていない、周りにいる俺たちだけが感じることのできるきずなのような何かがふたりの間にはある。それに嫉妬なんか感じたことはない。だって俺がなまえのことを好きだという事実は全くもってないのだから。ただの友達だ。そして、俺だけのはずたったジョージの世界に、唯一入ってきた存在である、それだけのことだ。

「フレッド?」
「ジョージじゃなくても、俺はここにいますよ」

お姫様、とふざけてなまえの手を取って、その甲に唇を落とした。純粋にその行為に驚いて顔を赤くさせるなまえを見て笑ってしまう。どうやら、ジョージの事だけだった頭の中に俺という存在や今の行為を認識したらしい。ジョージのもとへ行こうとする足を止め、顔を真っ赤にして、俺に向かって抗議をするなまえの言葉はもちろんすべて受け流した。

「フレッドじゃん!か、かっこいいけど、やめてよね!イケメンが軽率にそういうことしないでください。惚れてまうやろ!」
「惚れてくれればいいのに」

俺のことをイケメンだかっこいいだとうんぬん抜かすのはいつものことだ。当たり前だろう、大好きなジョージと同じ顔をしているし行動も思考もほぼ同じなのだから。まあなまえは、ジョージにはないものが俺にはある、とかなんとか本当かどうかよくわからないことを抜かすが。

「私が惚れてるのはジョージですから!フレッドはめっちゃかっこいいけどジョージが好きなの!」

まいった、と照れる彼女にもちろん恋心はない。恋心に似ているような友情なら持ち合わせているが。なまえは俺が言ったことが冗談だとわかっているからこそきっぱりとジョージへの愛を述べて見せた。俺が彼女を引き留めたのも、惚れてくれればいいのに、なんて冗談半分の戯言を言ったのも。俺にとっては一番くだらなくて、一番大切な理由だった。
俺の世界はジョージで、ジョージの世界は俺だったはずなのに。
もちろん、周りを拒絶したり、お互いの行動を気にしたりすることなんかない。あくまでもフリーダムで、双子であり、思考回路も何もかも同じだからこそだ。俺の見ている世界はジョージの見ているものと同じで、ジョージが見ている世界は俺がみているものと全く同じだった。なのに、俺と全く同じものを見ているはずのジョージの世界に、何故かなまえが入り込んできた。俺の意識の中にはただの友達として存在しているに過ぎない、恋人には決してなりえないなまえが、ジョージの世界にはそういう対象として入り込んだのだ。

「なあ、なんでジョージなの?俺と同じじゃない?」
「え…そんな今更?」

双子である俺たちに平等に接する人ばかりなのに。フレッドはフレッド、ジョージはジョージと認識していても、二人を一緒に扱うし、どちらか一方を好きでもう一方では駄目だなんて、親でも、兄弟でも、友達でも、だって、こんなの初めてなんだ。

「うーん、でも…」
「おい!何してんだフレッド」

まだ手に取ったままだったなまえの手を思い切り引いたのはジョージである。あんなに遠くにいたのに、こっちに気付いてやってきたのか。心配しなくてもお前のなまえには何もして…ない事はないけどやましいことはないから安心しろよ。必死そうな顔。なまえのためにだからって、そんな顔俺は絶対にしないぞ。何もしてない、というと、ジョージは胡散臭そうに俺を見て、なまえの隣に立った。うってかわってジョージに手を掴まれたなまえは困惑の表情と共に、ほんのりと顔を火照らせて嬉しそうにジョージの名を呼んでいる。
同じ景色を見て、同じことを考えて、同じものを好きになって、ずっと一緒に、同じ世界を見ていたはずなのに。なまえという点において、俺とジョージは全然違うものを見てる。正直に言ってやるよ。別になまえがどうこうとかそういうのじゃない。いつだって真っ先にジョージを見つけてあからさまにジョージを贔屓するなまえと、なまえに見つけられて、嬉しそうに笑うジョージを見ていると、思わずにはいられないのだ。

「フレッドがなまえをナンパするとか…世も末か」
「待て相棒。ナンパなんかしてないしジョージバカのなまえをナンパしてる時点で失敗だ」

見てみたい、知ってみたい。二人だけに通じる何かが。二人が自然に惹かれあう何かを。
バカジョージ。そんな敵対心あらわにしやがって。バカなまえ。そんなデレッデレに笑いやがって。モヤモヤするんだ。どうせお互いしか見えてないんだから、付き合ってしまえばいいのに。それともその関係に至らなくても、お互いがお互いだけだと確信させるような、惹かれあう何かがふたりの間にあるというのだろうか。

「フレッド、あのね、フレッドといると楽しいけど、ジョージといると幸せっていうか、やっぱりジョージがすごく好き」
「…え、何の話してたのふたり」
「ジョージがかっこいいって話!ていうかジョージ、罰則おつかれ!かわいそうに!次は私が変わるからね!」
「ありがと。大丈夫だぜ、次はどうにかしてフレッドにやらせる」
「やらねえよ」

知りたくなる。触れたくなる。俺の知らないその何かが、うらやましくなる。その関係に名前なんか無い。確証を得て表現できるものではない。でもきっと、ずっと尽きない、色褪せないものなのだ。柄にもなく、そうであってほしいと思う。花が咲いたように笑うなまえの笑顔が、いつだって相棒にむけて、俺とは違う景色の中を歩いていく、ジョージの隣にあることを。
そして俺はその二人の隣にいることが、きっとそんなに嫌いじゃない。

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