きっとこれが初恋なんだと思う。高校生にもなって初恋なんてちょっと遅すぎない? とは自分でも思うけど、幼馴染としてずっと一緒にいたのだからしょうがない。一緒にいすぎて何だかもう家族みたいな存在だったのだ、東堂尽八という男に対して。友達や、ファンクラブのみんなは尽八の幼馴染っていうポジションを羨ましがっていたけど、あたしからすれば幼馴染以外のポジションの方が羨ましかった。あたしが尽八を家族みたいな存在だと思っているということは、少なくともあっちもあたしのことをそう思っているだろうから。
待ち合わせ場所のマックで、ストロベリーシェイクをすすりながら尽八を待つ。多分今日も巻ちゃんの話しかしないんだろうなァ、と想像する。……好きって言ったらどうなるんだろう。尽八はきっと驚くだろうな。眼中になかったかも知れない。
「あたし、尽八が好き!」「なまえ……嬉しいぞ、俺もだ!」
瞬時に脳内で妄想が繰り広げられる。ふと交差点が目に入った。
「なまえ! 信号が赤になるぞ! 走れ!」「うん!」なんて繋がれた手にドキドキしながら走ったり、突然の雨に濡れて途中で雨宿りしながら見つめあって、少し照れながらちゅーしたり……。…………ないな。そもそも尽八は自転車で来るし。妄想は何でもアリだからなァ。人でごった返す交差点を再度見つめた。尽八はまだ来ない。

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尽八の話の約8割は巻ちゃんの話だ。残りの2割は自転車の話。巻ちゃん話はいつものことなので慣れっこだけど、巻ちゃんは尽八に好かれて大変そうだなァと思った。巻ちゃんが中々電話に出ないので着信を10回も入れてしまったよアッハッハ!
ってそれすんごい迷惑だよ。鬼電にもほどがあるよ。おめーは巻ちゃんの彼氏かよ。あと声デケェ。諸々の言葉をシェイクと一緒に啜る。こうなると尽八はマシンガンのように話し続ける上に相槌を必要としていないので、あたしはキラキラと輝く尽八の目を見て、時折頷いてみせるだけだった。
「そういえばなまえにまだ言ってないことがあってな」
「うん?」
「俺、彼女ができたんだ」
ガン、と後頭部を氷で殴られたような衝撃だった。一瞬何もかもの音が止んで、静寂が訪れる。ズゴ、とシェイクの空気音が間抜けに鳴った。ドッドッドッドッ、と心臓が早鐘をつく。
「…………。…………彼女?」
口の中がカラカラに乾いて、舌がもつれる。
「ああ、かわいいのだぞ! 写真見るか?」
「あ? ああ、うん、見る……」
見せられた彼女の画像は、いかにも尽八が好きそうな黒髪ロングの清楚系、という感じだった。顔は普通、だけど傷んでないような黒髪が眩しい。
「……か、かわいいね、よかったじゃん……」
「ハッハッハ! そうだろう、そうだろう!」
そこから尽八の惚気話が始まった。そこからよく覚えてない。どうやって相槌を打って、どうやって家に帰って来たのかも。気がついたらベッドに横になっていて、起き上がればキチンとお風呂にも入っていたようだった。恋なんだなあって自覚した途端にフラれるなんて、よくあるケースだ。よくあるケースすぎて逆に笑える。悲しさよりも呆然としてしまう。あまりにもあっけない。初恋は実らない、って本当だったんだな……。あるいは、気付くのが遅すぎただけか。「幼馴染だから、1番最初になまえに報告しようと思ってな! どうだ、嬉しいだろう!」そう言った尽八のことが無性に腹立たしい。ボタボタと溢れる涙に気づかないフリをして、あたしは近くにあった目覚まし時計を掴んで投げた。ドアに当たったそれは鈍い音を立てて落下する。恋がこんな苦しいものだって、あたし知らなかった。

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