※現パロ
ハッと気付いた時にはもう授業は終わっていて、ノートにはミミズが這ったあとみたいな文字しかなかった。そもそも文字と呼べるのかすらも怪しい。急いで隣の席のジジちゃんに声をかける。
「ジジちゃんジジちゃん」 「えー、なぁに?」 「現文のノート見せて!」 「ボクよりバンビちゃんの方が良いと思うなァ。あの子性格あんなだけど字はうまいし」 「誰がなんだって?」 「ゲッ」 「あ、バンビちゃん」 「…あんたさ、私らに借りるよりあいつに借りたら?」
ふいっとバンビちゃんが横へと視線を向ける。その先には長い赤い髪を後ろで高く束ねている阿散井くん。机と仲良く顔を合わせてお昼寝中だった。
「………!!バンビちゃ…!」 「あー…でもあいつがノートとってるわけないか」 「え゛っ、もしかしてなまえちゃんあいつのこと好きなの?」 「す、きじゃない!!!」 「これは確定だと思うの」 「ミニーちゃんまで……!」
たゆん、とミニーちゃんの豊満なそれが揺れる。ああ、目に毒だ。そしてリルちゃんとキャンディちゃんまでやってくる始末で、怒涛の言葉責めが私に降り注ぐ。
「いい加減告れよ」 「見てるこっちがイライラすんだけど」 「そろそろ私のライフがゼロかな」 「5限目は体育だから、なまえちゃんは絶対目で追うと思うの」 「おいジジ、男子はバスケだよな」 「そーだよー、ほんっとだるい」 「これは見るわ」
バンビちゃんが溜息混じりに私と阿散井くんを見る。…はい、そうですよ、見ちゃいますよ。皆さんが思ってらっしゃる通り私は阿散井くんのバスケしてる姿をずっと見ちゃいますよ。しょうがないじゃないですか!…だってかっこいいんだもん。
◆ ◇ ◆ 5限目の体育。体育館を二つに仕切って、半分は男子がバスケ、もう半分は女子がバドミントンをやっている。これで女子がバレーとかだったら全く男子が見れなかったので、本当によかったと心の底から思った。休憩とは名ばかりに壁に背を預けて体育座りをし、チラリと男子の方を盗み見る。ちょうど阿散井くんがシュートを決めたところだった。…あー、どうしよう、やばい、ほんとにかっこいい…っ。隣に座るミニーちゃんはダンクシュートやってみたいなんて言っていたけど、あなたがダンクシュートしたらゴールがぶっ壊れます。
「どうして告白しないの?」 「見てるだけで…いいから…」 「…そういうもの?」 「うん。私はね」
またチラリと男子の方を見る。阿散井くんとバチリと目があってしまった。なんでこういう時だけ…。するとちょいちょいと彼に手招きをされる。あたりを見回すけれど、「みょうじ!」と呼ばれて一気に心臓やら肩やらが跳ねた。ひっ!女の子何人かこっち見てるやめて!
仕切りのネット越しに阿散井くんと対峙する。白いTシャツに赤い髪が映える。だめだ、うっすらとかいている汗を拭う仕草にさえ胸が高鳴って仕方が無い。
「見てたか?今の!」 「し、シュート?」 「おう」 「見てたよ。か、っこよかった」 「マジか!やべーな、テンション上がるぜ」
声は上ずってなかっただろうか。自然に言えただろうか。大丈夫だ、織姫ちゃんだって、黒崎にかっこいいとか言ってるんだから、私も彼にかっこいいと言ったって問題はない。はず。
「あ、くろさき…」 「っでえ!?」 「恋次、お前次試合だろーが!早くしろ!」 「あ!黒崎くーん!頑張って!」 「おう、ありがとな井上」 「あ、阿散井くんも、頑張って…!」 「おー、一護なんざけちょんけちょんにしてやらァ」 「けちょんけちょんにされんのはお前だよ」
バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人はチームメイトに早くしろ!とどやされていた。ジャンプボールは黒崎に取られたけど、先に点をいれたのは阿散井くんだった。ミニーちゃんの元へ駆け寄ってまた体育座りをする。織姫ちゃんもたつきちゃんと一緒にバドミントンのゲームを再開していた。
「なまえの言うこと、ちょっと分かったかも」 「………?」 「見てるだけっていうのも、中々にときめきがあると思うの」
ミニーちゃんは微笑みながらそう言うと、すっと右手を私に差し出す。右手を引いてコートへと歩みを進めた。バンビちゃんとリルちゃんのコンビはキャンディちゃん一人に負けていて、バンビちゃんはご乱心だった。
今はまだ、見てるだけでいい。いつか私に勇気が湧いたら、この想いを告げてみようと思う。でもきっと、それは当分先のお話になるだろう。
141009 視線で告げるアイラブユー
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